2011年6月3日金曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…恋ふ(4)


<台北散策>
先週行った台北旅行の報告を少しします。台北市の地下鉄(MRT)は構内が明るくて実にわかりやすく,大きな字で案内表示がされています(写真は台北地下鉄板南線の路線図)。
自動改札システムも人手を掛けずに運営できるように良く考えられて設計されています。
トイレの数も多く,日本人でも安心して乗れます。当然ですが,台北市民の足としてしっかり根付いている感じがしました。
駅のホーム(台湾では「月台」と書く)では,後何分したら次の列車が来るか表示されますので,イライラしたり,不安になったりすることもありません。

それに何よりも料金が安いこと。最低料金が20台湾元で60円弱です。100円も出せば終点まで行けちゃいます。写真は台北地下鉄淡水線終着駅淡水駅から紅毛城へ行く途中で見つけたネコちゃんです。
ただ,もっと安いのがバス。バスは路線が多くて,乗りこなすのは容易ではないのですが,料金は高く,それていて外から来た人らは乗りこなすのが容易ではない都バスよりましかも?
台北は交通料金だけでなく,食べ物も安く,暮らしやそうという印象を持ちました。
<「恋ふ」を修飾する繰返し語>
さて,「恋ふ」の4回目として「恋ふ」を直接修飾または間接修飾する2音節(または3音節)の繰返し語(どんなものかは,2009年4月16日の本ブログの記事参照)を万葉集に出てくるものを取り上げます。
次の語が「恋ふ」の修飾語として出てきます。

朝な朝な‥毎朝
ころごろ‥日頃,この頃
しくしく‥しきりに
しばしば‥たびたび,幾度も
なかなか‥いっそのこと
ぬるぬる‥ほどけるさま。ずるずると
はつはつ‥わずか。かすかにあらわれるさま
ひねひねし‥さかりを過ぎている。古びている
降る降る‥繰り返し降る
ゆくらゆくら‥心が動揺し,ゆらゆらするさま

では,実際の短歌を見て行きましょう。

雨降らずとの曇る夜のぬるぬると恋ひつつ居りき君待ちがてり(3-370)
あめふらず とのぐもるよのぬるぬると こひつつをりききみまちがてり
<<雨が降らずにしっかり曇って夜は,気持ちがばらけるほど恋しい気持ちで居ります。貴女が待っておられるので>>

この短歌は中納言安倍広庭が詠んだものです。待っているのは作者(広庭)というのが一般的のようですが,私は妻問い婚の風習から待つのは女性の方だと思います。
雨が降らずに曇っている夜は,月明かりが無いため,他人に顔を見られる可能性が低く,雨ではないので移動も楽です。
そんな夜は「きっと広庭様がお越しになるかもしれない」と相手の女性が待っているのだろうと思うとますます恋情が嵩じて,冷静さが保てなる状態を「ぬるぬる」と表現したのではないでしょうか。
修飾語ではなく「恋ふ」自体が繰り返される表現を使った短歌もあります。

恋ひ恋ひて逢ひたるものを月しあれば夜は隠るらむしましはあり待て(4-667)
こひこひてあひたるものを つきしあればよはこもるらむ しましはありまて
<<長く想い続けてやっと貴方に逢えました。月が出れば夜の闇を隠す(明るくなる)でしょう。しばらくこのまま傍に居てくださいね>>

この短歌は,坂上郎女安倍虫麿に贈った1首です。もう少し一緒に居てほしいという願いを歌に託しています。
ところで,「恋ふ」は異性にだけ使う動詞ではありません。親友や上司,美しいもの(自然や都市など)に対しても使います。

奥山のしきみが花の名のごとやしくしく君に恋ひわたりなむ(20-4476)
おくやまの しきみがはなの なのごとや しくしくきみに こひわたりなむ
<<奥山のシキミの花の名のように、シくシくキミとしきりにあなたを想い続けることでしょうか>>

この短歌は,天平勝宝8(756)年11月23日大伴池主邸で開かれた宴席で大原真人今城が詠んだものです。
シキミが序詞としての用いられ,シキミのシが「しくしく」のシであり,キミが君を示しているのだろうと私は思います。
シキミの実は猛毒ですが,花は白く可愛い花が咲き,葉は良い香りがします。実は私の家の庭にも植えてあります。
さて,次回は恋ふの最終回で,自然を愛でるという意味の「恋ふ」について,万葉集の和歌はどう表現しているかを見て行きます。
恋ふ(5:まとめ)に続く。

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