2011年2月5日土曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…侘ぶ(3:まとめ)

万葉集で「侘(わ)ぶ」が出てくる歌はすべて短歌です。そして,「侘ぶ」が使われている短歌には女性歌人作と考えられるものが多いのです。
万葉時代,「侘ぶ」が女性の感情や女性から見た相手の感情を表す言葉として多用されていたと考えてもよいのではないかと私は思います。
今回は「侘ぶ」の最終回として「侘ぶ」を使った短歌が巻4に続いて多くでてくる巻12の短歌3首を紹介しましょう。
この3首はすべて詠み人知らずの短歌ですが,女性歌人作のものだろうと私は思います。

物思ふと寐ねず起きたる朝明には侘びて鳴くなり庭つ鳥さへ(12-3094)
ものもふと いねずおきたる あさけには わびてなくなり にはつとりさへ
<<(恋のことで)物思いして、寝られずに起きてきた朝には、庭の鳥まで悲しそうに鳴いている>>

この短歌から,切ない恋のことを考えていたら知らないうちに鳥の悲しそうな(侘びしい)鳴き声で朝になったことを知らされたという情景が読み取れます。
この悲しそうに鳴く鳥は「ヒヨドリ」ではないかと私は想像します。
ヒヨドリは日本ではポピュラーな鳥ですが,生息地はほぼ日本に限られている世界的には結構珍しい鳥なんです。
キョー,キョーと鋭い鳴き声は,もしかしたら作者とって悲しい気持ちを表す鳴き声に聞こえたのかも知れませんね。

我がゆゑにいたくな侘びそ後つひに逢はじと言ひしこともあらなくに(12-3116)
わがゆゑに いたくなわびそ のちつひに あはじといひし こともあらなくに
<<私の言ったことが理由でどうかそんなに落ち込まないでね。金輪際逢わないなんて言ったこともないのに>>

作者の女性は大好きな相手の気持ちを試そうとして,遊び心で「別れましょ」なんて言ったのでしょうか。
余裕をもってうまく受け流してくれると思っていたら,相手の男性がマジで狼狽したのを見てこれを詠んだのかもしれません。

国遠み思ひな侘びそ 風の共 雲の行くごと言は通はむ(12-3178)
くにとほみ おもひなわびそ かぜのむた くものゆくごと ことはかよはむ
<<国が遠いって心配しないでね、風に乗って雲が行くように、ちゃんと便りが通うでしょうよ>>

この短歌は,夫か恋人が地方に赴任または戦地に向かうときに贈ったものでしょう。
当時は,交通の便が飛躍的に(街道,荷馬,港湾,大型船等の)整備され,地方と中央との物流がどんどん盛んになっていった時代です。
それ以前では遠くに行ってしまうことは音信不通になることと同義だったのが,そうではない可能性が出てきたさまざな発展の時代だったことをこの短歌は伺わせます。
<現代の通信手段>
さて,今やインターネットが世界中の人々と文章だけでなく,画像,動画,音声で瞬時にコミュニケーションできる時代になりつつあります。
数日前のテレビで韓国のある家族が2人の子供をアメリカに留学させ,母親も同行しているため,残った父親が一生懸命働いて収入の8割を仕送りしている姿が紹介されていました。
けれど,家族はインターネットのテレビ電話で毎日のように顔を見ながら会話できていて,家族の絆はちゃんと保てている様子が映っていました。
こんなコミュニケーションの姿は,インターネットが普及する前では莫大な費用が掛かり一般家庭のコミュニケーションの手段としては不可能だったのではないでしょうか。
私は,日本が近い将来,人々が生きていくため,より豊かな国へ出稼ぎに行くことが珍しいことではない時代が再び来るのではないかと思います。
例え家族が出稼ぎに行く必要が出ても,12-3178の短歌のようにものごとを前向きにとらえ「侘ぶ」気持ちを難なく乗り越えていける活力溢れる人ばかりであってほしいと考えています。
去ぬ(1)に続く。

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