2010年3月1日月曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…待つ(4) 「待つは受け身か?:まとめ」

今回は動詞「待つ」をテーマとした投稿の最終回です。
まず,万葉集に出てくる「待つ」の熟語をいくつか紹介しましょう。

在り待つ(ありまつ)…そのまま待ち続ける。
心待つ(うらまつ,こころまつ)…心待ちにする。期待して心の中で密かに待つ。
片待つ(かたまつ)…ひたすら待つ。
待ち出づ(まちいず)…待ち受けて会う。出てくるのを待つ。
待ちがてに(まちがてに)…待つに堪えず,待ちかねて。
待ちかぬ(まちかぬ)…来ることが遅くて待ち切れなくなる。待ちあぐむ。待ちわびる。

これらの熟語には人間の「待つ」行為のいくつかの段階をそれぞれ示している気がします。
最初は誰にも知られないように密かに待っている(心待つ)。
    ↓
それが長い間になってくる(在り待つ)とひたすら我慢しながら待つことになる(片待つ)。
    ↓
そして,そのうち待ちきれなくなって(待ちかぬ)しまい,自ら出て行ってまで待つ(待ち出づ)。

梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてり(10-1900)
うめのはなさきちるそのにわれゆかむ きみがつかひをかたまちがてり
<<梅の花がみごとに咲き,散った花びらが地面を彩っている美しい園に私は行きましょう。あなたの使いをずっと待っていたのにいよいよ待ちきれなくなってしまったので>>

梅の名所に梅の花が見ごろの時期にお逢いしましょうとデートを誘う文(ふみ)を出したのに相手の返事を持ってくる使いはいくら待っても来ない。
この短歌の作者は業を煮やして使いにこの短歌を持たせて相手に送ったのでしょう。
この和歌からビートルズやカーペンターズがカバーした「プリーズ・ミスター・ポストマン」を思い出すよね,天の川君?

  天の川「あ゛~はぁ~。 何? そんな何十年も前の歌,知るかいな!」

春眠から少し覚めたようだけど,まだ寝ぼけているので放っておきましょう。
<日本人は待ってばかりいて受け身の民俗か?>
さて,ここまで万葉集に現れる動詞「待つ」について何回か触れてきましたが,最後に日本人は待つばかり(受け身)の人間であるという内外の評価について少し触れ,「待つ」のまとめとします。
日本人は受け身で他人の真似をするのが得意。また,決められたことに対して創意工夫(改善)しつつ堅実に行うことも得意である。
しかし,やったこともないような新しいことにチャレンジするのは不得意という評価についてです。
これらの評価は,日本は島国だからということだけではどうも説明がつかないような気が私にはします。
<日本人の「待つ」は「四季の変化」と深い関係?>
私は「待つ」ことを是とする日本の国民性は,四季がもたらす規則正しい自然の変化と関係が強いのではないかと考えています。
万葉集の和歌から四季の変化(気象変化)や月の満ち欠け(潮汐変化)を無視しては,農作,漁業,狩猟,水運などはうまくいかないことをすでに万葉時代十分知っていたことと私は思います。
すなわち,自然と調和したもっとも合理的な経済の営みを送るために,ある作業の最適な自然環境になるまで「待つ」ことが当時の仕事の一つだったのだと私は感じるのです。
今でも,東北地方や甲信越地方では,山に残った残雪が真っ白からある形(雪形)が想定される動物や人の形への変化(雪融け)を待って種まきや田植えを開始したという言い伝えがあるところも多いようです。
<自然との調和より自然を変えるもいとわない一部外国?>
いっぽう,四季の変化の少ない国(熱帯,砂漠,ツンドラ,極限,高地)や雨季と乾季の差が激しい地域では,自然の変化を待つだけではなかなか定常的に豊かになれない。
そこで,自然の影響を受けにくい装置(温室,温度,湿度の空調設備,海水の真水化設備など),資材(強力な農薬,肥料),手法(パオテクノロジーによる品種改良)などの導入や極端な場合は自然を変えてまで人間の豊さを追及する姿勢が強くなるのかもしれません。
そういった国々の人から見ると,自然任せの日本人はアグレッシブさや開拓精神が足らないと映るのかもしれませんね。
また,そんな評価に対し「日本人はもっと積極的ならなければ」と自虐する日本自身のメディアや評論家が多いような気がします。
<自然との調和を忘れてはならない?>
今後さらに世界のグローバル化が進む中で,当然のこととして第一次産業から第三次産業まで日本の発展の方向性を様々な国へ説明し,理解を得ることだけでなく,全世界的な問題を解決するためにリーダシップの発揮をこれまで以上に求めらていくでしょう。
それに応えるためには,当然「待つ」だけでなく積極的な新しい提案やそれにチャレンジしていく行動力が必要になります。
しかし,たとえそうであったとしても,日本には万葉集にも多く取り上げられている類稀で美しく,そして我々にさまざまな恩恵を与えてくれる四季や自然の姿があることをけっして疎かにしてはならないと私は思うのです。
日本は自然とさまざまな産業が調和した生き方のベストプラクティス(もっとも成功した事例)であると世界が認め,自然と心身の豊かさを見るために多くの国から人々が訪れる,いつまでもそんな国でありたいと私は考えます。
<自然との調和は忍耐力が必要?>
それに向けては,決して焦らず,最適なタイミングを待つ。待っている間はやがて来るベストなタイミングになすべき行動の準備をしっかり行い,そのタイミングが来たら迅速かつ的確に行動する。
たとえ失敗してもその原因を分析し,次のタイミングまで対策を立て,また準備をしっかり行い,次の最適タイミングを待つ。
そんな,忍耐力は求められるがメリハリのある「待つ」という行為(自然や関係対象との調和のとり方)こそが,他国への侵略や干渉と受け取られない理想の国の在り方かも知れないと私は考えるのです。
動詞シリーズ「伝ふ」に続く

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