2010年3月14日日曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…伝ふ(2) 万葉仮名は情報を伝えるメディア

今回は「伝える」手段として万葉集万葉仮名と今の情報伝達手段について考えてみます。
漢字は5世紀から6世紀にかけて日本にもたらされ,それまで文字をもたなかった大和民族は初めて文字を使うようになったのです。
万葉時代は大体7世紀から8世紀であるとすると,漢字を中心とした文字文化(漢文,万葉仮名の利用)がようやく広まりつつあった時代でしょう。
文字を書くための道具も当然必要で,筆,木簡,紙が使われたようですが,紙はまだ非常に高価なものだったようです。
結局,万葉時代は文字の活用はまだ一部の特権階級に限られ,相手に何かを伝えようとする場合,多くは文字を使わずまだまだ口承(声で伝える)ことの重要性がまだ大きな役割を持っていたと私は考えます。
次の山上憶良が詠んだ長歌の冒頭では,言い継ぐ(口承する)言葉,口伝てで啓示や国のPRを伝えることの重要性を示したものだと私が感じる和歌です。

神代より 言ひ伝て来らく そらみつ 大和の国は 皇神の 厳しき国 言霊の 幸はふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり ~(5-894)
かむよより いひつてくらく そらみつ やまとのくには すめかみの いつくしきくに ことだまの さきはふくにと かたりつぎ いひつがひけり ~>
<<神の時代より言い伝え来ること 大和の国は天皇の祖先の威厳がそなわった国で,言葉に宿る霊威によって豊かに栄える国と語り継ぎ言い継がれてきた~>>

しかし,文字の活用技術も着実に進化していたのは事実です。その一つの試みがやまと言葉を文字で表現する場合の万葉仮名だったことは間違いありません。
万葉仮名は,万葉集での使われ方を見ても当時はまだ統一的な基準が定まっていなかったのではないかと私は感じます。例外的な用法がたくさんあり,現在でも読みが不明または定まっていない和歌が万葉集に多く残っています。
そのためか,万葉集は上代朝鮮語で解釈できるとか,何かの暗号ではないかとか,センセーショナルに取り上げた書籍も出版されているようです。
万葉集の編者大伴家持は,万葉集の編纂のために万葉仮名に対応するさまざまな読みの対比を説明するもの(恐らく漢文で説明したもの)を作っていたのでしょう。
ところが,家持没直後の弾劾で家族は流刑になり,家や彼が作った資料もすべて焼き払われ,そういった資料がなくなってしまった可能性が高いと私は考えます。私は,大伴家の衰退と万葉仮名の衰退には何らかの相関関係があるような気がしてなりません。
とはいえ幸い万葉集の写本は残り,そこにある万葉仮名の読みをその後の国学者が類推することで,万葉集に数々存在する多様な和歌が今まで伝わったことは紛れもない事実です。
<現代は伝える多くの手段がある>
いっぽう,今の社会においては万葉時代と違い,直接話す以外に相手に何かを伝える手段が非常に多くあります。
手紙やはがきなどの郵便,電話・電報,無線通話,FAX,インターネットを利用した電子メール・IP電話・Webサイト・ブログ・ツィッター・電子会議など,街の電光掲示板・看板・ポスター,新聞・雑誌などの広告・投書欄,テレビ・ラジオなどの広告や投稿,手話,点字,落書き(非合法)など本当にさまざまです。
これらは相手に情報を伝える手段(何を使って伝えるか)を指し,情報伝達媒体(メディア)と呼びます。
たとえば,マスメディアは多くの人に情報を伝える媒体を指します。また,マルチメディアは上記のようなたくさんの種類(特にデジタルデータの派生媒体)の情報伝達媒体があることを意味します。
メディアの種類は今後も増え続け,万葉時代とは比べ物にならないほど効果的・効率的,そしてより安価に相手に情報を伝えることができるまさに情報化時代なのです。
でも,そういった情報を伝える共通技術は非常にシンプルなものだということを次回に説明し,「伝ふ」のまとめとします。
「伝ふ」(3:まとめ)に続く。

0 件のコメント:

コメントを投稿