2018年3月7日水曜日

続難読漢字シリーズ(8)… 昨夜(きぞ)

続難読漢字シリーズに戻ります。
今回は昨夜(さくや)の別の読み方「きぞ」について,万葉集を見ていきます。
最初は,大伴女郎(おほとものいらつめ)がなかなか妻問に来てくれなかったが,ようやく昨晩来てくれた夫に送った短歌です。

雨障み常する君はひさかたの昨夜の夜の雨に懲りにけむかも(4-519)
<あまつつみつねするきみはひさかたの きぞのよのあめにこりにけむかも>
<<雨を口実に来れないといつも言い訳するあなたは、昨夜の逢瀬の雨に濡れて懲りてしまわれたですか>>

昨晩雨だったのに妻問に来てくれた夫に対する返礼の歌ですが,待つだけの身である妻の立場の複雑な気持ちを詠んだ秀歌と私は思います。
来てくれたのは本当にうれしい。でも,それがもうこれっきり(最後)にならないことを願う気持ちをどう表現するか。それを相手のなかなか来てくれない言い訳を逆手にとって,相手に伝えようとしている表現力に
次は,若い頃の大伴家持が紀女郎(きのいらつめ)に対して贈った5首の内の1首です。

ぬばたまの昨夜は帰しつ今夜さへ我れを帰すな道の長手を(4-781)
<ぬばたまのきぞはかへしつ こよひさへわれをかへす なみちのながてを>
<<暗い夜道を昨夜は私を帰しましたよね。今夜は私を帰さないでください。長い道のりなんですから>>

家持は,年上の紀女郎の気持ちを自分に靡かせようと頑張って詠んだようです。
結果は,成功とはいかなかったようです。
最後は,信州地方にある川を題材に詠んだ東歌です。

うちひさつ宮能瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も(14-3505)
<うちひさつ みやのせがはのかほばなの こひてかぬらむきぞもこよひも>
<<宮能瀬川のヒルガオの花がいつまでも恋人が来てほしい咲いているように,昨夜も今夜も恋しいと思いながらひとり寝てるだけかな>>

今は,「昨夜」を「きぞ」と言うことは現代ではほとんど無くなってしまったようですが,「昨日」を「きのふ(う)」と言うのが今に残ったのは,前者に比べ,偶然よく使われ言葉だったことが理由なのかも知れません。
万葉集は,1300年の間のそんな言葉の流行りすたりも,現代の私たちに教えてくれるのです。
(続難読漢字シリーズ(9)につづく)

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