2015年10月10日土曜日

今もあるシリーズ「麻(あさ)(1)」 … 万葉時代の東国は絹の産地。でも庶民は麻を着ていた?

麻は,今も衣類の繊維として利用されています。強く,風通しが良いので,蒸し暑い季節に爽やかな感じて着られるシャツなどに利用されています。
また,麻という漢字は次のように,植物や繊維以外いろいろなところに使われています。
麻雀(ゲーム),麻薬(医療),麻婆豆腐(料理),麻生(人名),麻布(地名),麻田(人名)などがあります。
万葉時代は,木綿の栽培は今ほど盛んではないく,絹の生産も今と同じ高級服用に限られていたようです。
そうすると,庶民が着る服は丈夫で軽い麻の布で作られた服となります。
万葉集でも,麻はたくさん詠まれていますが,何といっても万葉集に載っている和歌の男性作者の名前の最後によく出てくる「~麻呂」は,「麻」の字が使われています。
では,実際の万葉集の和歌を見ていきましょう。「麻」が一番たくさん詠まれいる万葉集の巻は14(東歌)です。
確かに,東歌は東国の庶民(多くは農民)の歌が多いので,分かるような気がします。

麻苧らを麻笥にふすさに績まずとも明日着せさめやいざせ小床に(14-3484)
あさをらををけにふすさに うまずともあすきせさめや いざせをどこに
<<麻の糸を桶いっぱいになるまでよりあわせなくても,それで明日着せる服に間に合うはずもないから,さあ床で寝よう>>

夫が一生懸命夜まで働いている妻に対して,早く床に来いよと誘っている短歌と私は感じます。
麻の繊維をほぐして,糸に縒りあわせるのは結構面倒な作業だったのでしょうか。
そのため,庶民の妻の内職として,当時すでに定着していたのかもしれません。
妻は子どものためにせっせと内職をしているが,昼の仕事が終わった亭主は夜の営みをまだかまだかと待っている雰囲気が良く伝わってきます。
次も東歌です。

上つ毛野安蘇のま麻むらかき抱き寝れど飽かぬをあどか我がせむ(14-3404)
かみつけのあそのまそむら かきむだきぬれどあかぬを あどかあがせむ
<<上毛野の安蘇の群生した麻を腕一杯にかかえて寝たけれど、まだ満足できないが,どうすればよいのだろう>>

今の栃木県の安蘇郡で,渡良瀬川の流域で麻が群生しているところがあったのでしょうか。
麻は大麻(マリファナ)の原料となるように,その乾燥させたものには,精神を麻痺させるような薬理作用があるとされています。
そういったものを大量に抱きしめても,彼女を抱くのに比べたら全然満足できないといったことをこの短歌は表しているように私は思います。
最後も東歌です。

庭に立つ麻手小衾今夜だに夫寄しこせね麻手小衾(14-3454)
にはにたつあさでこぶすま こよひだにつまよしこせね あさでこぶすま
<<庭に生えている麻で作った小さな掛布団よ,今宵は夫が来るように願ってね,麻で作った小さな掛布団よ>>

自宅の庭に生えている麻で丹精込めて作った小さな掛布団は,二人がしっかり抱き合わないとはみ出てしまうような可愛いものだったのでしょうか。
夫が来てくれるのを今か今かと心待ちにしている様子がしっかりと伺えますね。
東歌では,次の短歌から養蚕は始まっていたと思われますが,庶民の普段着には使えない高級品だったのでしょう。
また,東歌には木綿の布を詠んだ和歌が出てこないため,当時の東国では衣類や寝具の生地して麻布が多く使われていたことも想像できます。

筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣しあやに着欲しも(14-3350)
つくはねのにひぐはまよの きぬはあれどきみがみけしし あやにきほしも
<<筑波嶺の新桑で作った絹の最高級な衣があると聞くけど,私はあなたの衣を身につけてみたいのよ>>

今もあるシリーズ「麻(あさ)(2)」に続く。

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