2014年12月14日日曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…照る(1) 万葉時代,月夜は今よりもっと明るかった?

<転職して2週間。一番苦しいところ>
新しい職場に勤務を開始して2週間。やっと,周りの仕事の内容が見えてきたところです。
以前にも述べましたが,私が専門としている稼働中ソフトウェアの保守開発の仕事は「たかがちょっとした修正でしょ」といった簡単なものではありません。
対象コンピュータシステムに搭載されたソフトウェアがどのようなことを重視して初期開発されたのか,その後どのような問題に遭遇し,どのような改修をされてきたのかなどの経緯が分からないと,コスト的,将来的,緊急対応度,対応困難度,対応影響範囲などの観点から,最適な対応(改修)方法を導き出すのが簡単にはできないのです。
対象システムが大規模なため,現状を理解するだけでなく,そういった今までの経緯を含めて完全に理解をするのは,まだまた時間が必要です。
しかし,すべてが理解できていなくても課題の解決を行いながら理解を深めていくことも現実的な対応で,限られた情報しかなくても最適な対応方法を素早く見つける技もプロフェッショナルとして必要な技量かもしれません。
<本題>
さて,近況はそのくらいにして,今回から「照る」について万葉集を見ていきましょう。万葉集で「照」の漢字があてられている和歌は100首以上もあります。「照る」の意味は,明るくかがやく・ひかるという意味と,つやが良いといあ意味があります。また,枕詞(高照らす,押し照る)に使われていて,それ自体に直接的な意味がない場合もあります。
その中を見ていくと,「照らしている」ものの本体は次のようなものに分類できます。
 ・月
 ・日
 ・花
 ・その他(玉,黄葉,雪,天の川などの星,天など)
今回はまず「照りかがやくものとしての月」や「月が照っている月夜」を見ていきます。これらを詠んだ和歌は50首ほど万葉集で出てきます。
1首目は,長屋王(ながやのおほきみ)の娘とされている賀茂女王(かものおほきみ)が詠んだ相聞歌1首です。

大伴の見つとは言はじあかねさし照れる月夜に直に逢へりとも(4-565)
おほとものみつとはいはじ あかねさしてれるつくよに ただにあへりとも
<<あなた様を見たとは言わないことにしましょう。すごく明るく月が照っている夜にあなた様と直(じか)に逢うことができたとしても>>

誰に贈ったかは不明のようですが,これも女王の他の相聞歌に出てくる大伴三依(おほとものみより)だったのではないかと私は思います。
三依はこれを受けて詠んだかどうか不明ですが,同じ巻4の中で次の短歌を詠んでいます。

照る月を闇に見なして泣く涙衣濡らしつ干す人なしに(4-690)
てるつきをやみにみなして なくなみだころもぬらしつ ほすひとなしに
<<明るい月夜が闇夜に見えるほど泣いた涙で衣を濡らしてしまった。干してくれる人などいないのに>>

この両短歌が女王と三依の間のものであったとしたら,ふたりの間は悲恋となったことになります。
何が二人を逢えなくさせる要因となったのか分かりませんが,政治的な問題(長屋王の変)が影響したのかもしれないと私には感じられます。
次は,志貴皇子(しきのみこ)の子であり,光仁(こうにん)天皇の弟である湯原王(ゆはらのおほきみ)が詠んだ短歌を紹介します。

はしきやし間近き里の君来むとおほのびにかも月の照りたる(6-986)
はしきやしまちかきさとの きみこむとおほのびにかも つきのてりたる>
<<すぐ近くの里に住むあのお方が来てくださるようだ。大きな満月が照りはえている>>

この短歌は,女性の立場で詠んだようのではないかと私は感じます。満月の夜は,道を明るく照らし,出る時間帯も日が暮れたら直ぐなので,夜に行われる妻問にはもってこいです。今夜は素晴らしく明るい満月が照っているので,あの方は今夜こそきっと来るだろうと待ち望んている女性の気持ちを詠んだのではないでしょうか。
この湯原王は,政治的にはほとんど記録に残っていない人物ですが,万葉集に19首の短歌を残しています。天武系の天皇が続く天平時代に,天智天皇系の志貴皇子の血筋をもった人たちは,和歌を詠みながら時代の変化をひたすら待っていたのかもしれません。
長屋王のように天武系であっても敵を作ってしまい,粛清の憂き目に遇うのは避けたいですからね。
最後は,詠み人知らずの短歌ですが,大伴氏の繁栄を願って詠んだと考えられるものです。

靫懸くる伴の男広き大伴に国栄えむと月は照るらし(7-1086)
ゆきかくるとものをひろき おほともにくにさかえむと つきはてるらし
<<矢筒を背負い朝廷に仕える丈夫の大伴氏によって,国はいよいよ栄えゆく証しとして,月もさやかに照るっているようだ>>

このように月が照ることが,現代と比べ物にならないほど,当時の人々にとって大きな意味を持っていたのだろうと私は想像します。きっと,明るく照った月夜は,普通の夜と違う元気が出る夜だったのでしょう。
それは,今の季節,あちこちで通りで綺麗で豪華なイルミネーションが点灯されると,寒さなんか忘れて,出かけてみようと思う気持ちと同じかもしれませんね。
動きの詞(ことば)シリーズ…照る(2)に続く。

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