2014年2月15日土曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…告ぐ(2) 恋しさを誰に告げてもらおうか?

今朝の自宅付近は大雪と雨で外に出られる状態ではありませんでした。2週連続の大雪で,さまざまな影響が出ていますが,休日のお客さんを当てにしていたレジャー業界にとっては特に影響が大きかったのではないかと心配しています。
さて,「告ぐ」の2回目は,万葉集で恋人や妻に恋しい気持ちを自分では伝えられないので,誰に告げてもらおうかと思案する和歌を見ていきます。
自分の気持ちを相手に伝えることは実は簡単でも単純でもありません。伝え方によっては相手が誤解してしまうこともあります。
まして,恋しい気持ちが募ると冷静ではいられませんから,伝える方も余計なことを考えてしまい,結局うまく伝えることができないこともよくあるのではないでしょうか。
また,告げようにも,遠く離れていて直接告げることができない状況もあり得ます。
最初は死にそうに切ない恋心を相手に告げられない苦しい思いを詠んだ詠み人知らずの短歌です。

恋ひ死なば恋ひも死ねとや玉桙の道行く人の言も告げなく(11-2370)
こひしなばこひもしねとや たまほこのみちゆくひとの こともつげなく
<<苦しい恋で死んでしまったら,その恋自体も死んで無くなってしまうというが,そこまで苦しい俺の気持ちを誰か道行く人が俺の代わりに彼女に伝えてくれるのだろうか?>>

「そんなに苦しいほど思っているなら,相手に直接気持ちを伝えたらいいじゃん」なんていう助言はこの人には通じないでしょうね。気持ちを告げたら,相手の女性が速攻「ごめんなさ~い」となると,それを想像しただけでも耐えられないのでしょう。男は筋力は強くても,心力(しんりょく)のほうは意外と弱い面もあるのではと私は最近思うことが多いのです。
しかし,一方でこんな短歌を詠めるのはまだ心に余裕がある証拠。黙ってストーカー行為に走る男より心的にはずっとマシといえるでしょうね。
次は,女性(詠み人知らず)の短歌ですが,こちらは告げてほしくない,でも作者のウキウキしたした感じ伝わってくるものです。

葦垣の末かき分けて君越ゆと人にな告げそ事はたな知れ(13-3279)
あしかきのすゑかきわけて きみこゆとひとになつげそ ことはたなしれ
<<「庭の葦垣の上部をかき分けてあの人がきましたよ」とほかの人に聞こえるように告げないで。空気を読んでよね>>

大きな声で告げたのは彼女(この短歌の作者)の世話役でしょうか。それとも,飼っている鶏や犬でしょうか。世話役だとすると空気を読まず早く教えてあげようと大きな声をだしたのでしょう。彼女にしてみれば彼氏との時間に第三者が興味津々と聞き耳を立てているようなことをされたくはないですからね。
最後は大伴家持越中の国守をしていた天平勝宝2年2月に,国府があったとされる場所から南西へ20㎞ほど離れたところの「藪波の里」に新たに,開墾した田を視察するため泊まりがけで出かけた際に詠んだ短歌です。

薮波の里に宿借り春雨に隠りつつむと妹に告げつや(18-4138)
やぶなみのさとにやどかり はるさめにこもりつつむと いもにつげつや
<<藪波の里で宿借りているが,春雨に降りこめられて帰れないと妻に告げてくれましたか>>

ここでの春雨はシトシト降る雨ではなく,結構な嵐だったようです。なかなか帰れないので,妻である坂上大嬢(家持が越中に赴任して4年になり大嬢を呼び寄せていたと考えられます)にその旨を告げてほしいという気持ちを詠んだものだと私は解釈します。
では,家持は誰に対して帰れないことを告げたかを確認しているかというと,使者ではなく,春雨君だろうと私は思います。家持が越中で妻と住む家から20㎞くらいしか離れていないので,妻が居る家でも春雨は降っていて,この強さでは夫はすぐには帰ってこれないだろうという状況が伝わっていてほしい(本当は直接告げたいが)という願いを詠んだものと考えてしまいます。
電話など遠隔とのコミュニケーション手段が無い時代のほうが,お互いを思う気持ちが強かったのかも知れませんね。
今,携帯電話やスマホなどがないと非常に不安になる人がいると聞きます。そういう人は,ある時間ネットから隔離した状態(ネット経由で誰からも告げられないし,告ぐこともできない状態)で,自分の精神をコントロールする訓練をする必要があるのかもしれません。
動きの詞(ことば)シリーズ…告ぐ(3:まとめ)に続く

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