2012年1月15日日曜日

対語シリーズ「白と黒」‥肌は透き通るほどの白さか?:健康的な黒さか?

「白」と「黒」は対象的なものをイメージするのによく使われます。カラー映像が一般的でなかった時代は特にそうかもしれません。
また,囲碁,オセロの石,チェスの駒は白と黒で構成され,それぞれの色を持つ者同士が対戦して確保した陣地や石の数,特定の駒の獲得で勝敗を決めます。日本では,日の丸や,いわゆる源平合戦の源氏(白)と平家(赤)が起源と言われる小学校の運動会での白組紅組対抗戦のように,赤と白が一般的です。しかし,世界的に見れば赤と白の対抗戦をするゲームやスポーツは少ないのかも知れませんね。
さて,本題の「白」と「黒」に戻します。万葉集では「白」と「黒」を詠んだ和歌がたくさん出てきます。しかし,多くは「白」や「黒」単独では出てきません。
「白」は昨年8月最初に投稿した「紅と白」で,白で始まる熟語を出していますので,万葉集で詠まれた「黒」で始まる熟語を紹介します。
黒髪,黒木(木の皮が付いたままの木),黒酒(白酒に黒い色に着色した酒),黒沓(漆を塗ったクツ),黒駒,黒馬
この中から,長屋王(ながやのおほきみ)宅での宴席で,黒木を詠んだ元正(げんしやう)太上天皇,元正天皇から譲位された聖武(しやうむ)天皇作の短歌をそれぞれ紹介しましす。

はだすすき尾花逆葺き黒木もち造れる室は万代までに(8-1637)
はだすすきをばなさかふき くろきもちつくれるむろは よろづよまでに
<<尾花を逆さに葺いて削らない荒木で作っている奥の部屋だが,いついつまでも栄えていくことでしょう>>

あをによし奈良の山なる黒木もち造れる室は座せど飽かぬかも(8-1638)
あをによしならのやまなる くろきもちつくれるむろは ませどあかぬかも
<<奈良の山の黒木で造ったこの室は、いつまで居ても飽きないことだ>>

これらの短歌は,聖武天皇即位(神亀元年:724年)後,長屋王(当時左大臣)がいわゆる「長屋王の変」(神亀6年:729年)でこの世を去るまでの間に詠まれたものだと考えられます。急に左大臣になった長屋王は,急ごしらえで天皇と太上天皇を迎える奥の部屋を建てたのでしょう。材木を削る暇もなく,(黒木のままで)柱を建てたようです。
ただ,両天皇は黒木で造った離れも趣があり,なかなか良いし,これからもこんな造りが流行って行くかもしれないと褒めたものがこの2首の意味です。両天皇が期待した長屋王ですが,藤原氏との軋轢が次第に高まっていき,藤原氏の陰謀説が燻っている長屋王の変で命を落とす結果となったのです。
万葉集の編者がこの両天皇の短歌を巻8の「冬の雑歌」にさりげなく入れている意味をどうしても私は考えたくなります。結局,冬の雑歌にしては季節感が無さ過ぎるように私は感じます。主題は季節ではなく,あきらかに黒木で造った長屋王の室です。編者はどうしても長屋王の自宅に元正太政天皇,聖武天皇が行って,宴が行われたことを目立たないように残したかったという意図があったのではないかと私は推理します。
さて,次は「白」と「黒」の両方を詠んだ短歌を中心に紹介します。

黒髪に白髪交り老ゆるまでかかる恋にはいまだ逢はなくに(4-563)
くろかみに しろかみまじり おゆるまで かかるこひには いまだあはなくに
<<黒髪に白髪が混じるほど年寄った今まで,こんな恋をまだ経験したことはありませんのに>>

この短歌は,坂上郎女(さかのうえのいらつめ)が筑紫で詠んだとされる内の1首です。このとき郎女の年齢は30歳前後(アラサー?)だったろうと思われますが,今で言うとアラフォーに近いイメージかも知れませんね。
年上の女性の言葉の巧みさが私には伝わってきます。郎女にコロッといった男性(年齢に関わらず)が結構いたのかも知れませんね。
髪の色の次は,肌の色について漫才のように掛けあった短歌です。訳は天の川君お願いするよ。

天の川 「たびとはん。おっしゃ,ええで。」

ぬばたまの斐太の大黒見るごとに巨勢の小黒し思ほゆるかも(16-3844)
ぬばたまの ひだのおほぐろ みるごとに こせのをぐろし おもほゆるかも
<<斐太はんが飛騨の大黒(黒毛の立派な馬)みたいに大きいて真っ黒に日焼けしてるのを見てると,そうそう巨勢はんのほんまにまっ黒けのちっちゃい子たちがおったのを思い出すわな~>>

駒造る土師の志婢麻呂白くあればうべ欲しからむその黒色を(16-3845)
こまつくる はじのしびまろ しろくあれば うべほしからむ そのくろいろを
<<何言うてんねん。いつも部屋ん中で土の駒人形ばっかり作って,日にあたらんさかい末生(うらな)りみたいに真っ白けの志婢麻呂はんには,本当は日焼けした黒い肌が羨ましいんやろ?>>

天の川君の訳は少し誇張しすぎた部分もあるけど,宴会の席で酒が入って,お互い言いたいことを言い合っている姿が目に浮かぶようですね。
奈良時代になり,いろんな職業の人達が一緒に生活していることが想像できます。天の川君みたいに喰っちゃ寝,喰っちゃ寝している人はほとんどいなかったと思いますけどね。

天の川 「うるさいなあ。放っといてんか。」

対語シリーズ「干潮と満潮」に続く。

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