2010年12月5日日曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…立つ(5:まとめ)

さまざまに意味を持つ「立つ」について,今回で一区切りをつけることにします。
「立つ」の連用形で次に動詞を修飾している言葉が次のように万葉集にたくさん出てきます。

立ち栄ゆ(たちさかゆ)…草木などが茂り栄える。時を得て繁栄する。
立ち候ふ(たちさもらふ)…立って警備に奉仕する。
立ち重く(たちしく)…重なり立つ。
立ち撓ふ(たちしなふ)…しなやかに立つ。
立ち立つ(たちたつ)…盛んに立ちのぼる。盛んに飛ぶ。
立ち動む(たちとよむ)…どよむ。さわぐ。
立ち嘆く(たちなげく)…立ってため息をつく。
立ち均す(たちならす)…地面を踏みつけて平らにする。その場に常に行き来する。しばしば訪れる。
立ち走る(たちはしる)…立って走る。走り回る。
立ち向かふ(たちむかふ)…立って向かう。対抗する。敵対する。
立ち徘徊る(たちもとほる)…歩き回る。行きつ戻りつする。
立ち行く(たちゆく)…立って行く。出発する。
立ち装ふ(たちよそふ)…装う。周りを飾る。
立ち別る(たちわかる)…別れていく。別れ去る。

このように,万葉集で「立つ」は多様な使われ方をしています。
「立つ」をテーマとした最後として柿本人麻呂作の有名な短歌を次に紹介します。

東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(1-48)
ひむがしの のにかぎろひの たつみえて かへりみすれば つきかたぶきぬ
<<東の方向の野に陽炎の出ているのが見えて,後ろを見たら月が西方に沈みかけている>>

軽皇子(後の文武天皇持統天皇の孫)が狩のため,阿騎の野に宿営したときに人麻呂が詠んだ長歌に続く短歌の1首です。
東の方が明るくなって,太陽が昇る前兆の陽炎が見えてきた。これは,これから軽皇子が時代が来るという明確な前兆を示す。
反対側では満月の月が西に沈みかけようとしている。これは,父君の草壁皇子が亡くなったことを示していると考えられます。
軽皇子は恐らく10歳過ぎの年齢であるが,将来の天皇家を担う皇子として,周りが次期天皇の第一候補として讃嘆している情景が浮かびます。
「立つ」の意味が広いため,「陽炎が立つ」が軽皇子の立太子を暗示していたのかも知れません。
この後,軽皇子は15歳で立太子,祖母の持統天皇から譲位され,文武天皇となります。
持統皇太后後見の下10年間在位したが,崩御し,母親の元明天皇(奈良時代最初の天皇)が後を継ぐことになります。
そして,元明天皇は娘に譲位し,2代続けて女性の天皇(元正天皇)が続くことになります。
ようやく文武天皇の第一皇子が育ち,再び男性天皇の聖武天皇が即位し,まさに天平時代を迎えるのです。
匂ふ(1)に続く。

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