2018年6月6日水曜日

続難読漢字シリーズ(28)…搗く(つく)

今回は「搗く(つく)」について万葉集をみていきます。意味は杵(きね)や棒の先で打って押しつぶす動作です。「餅を杵で搗く」「戦時中の疎開先で,一升瓶に入れた玄米を棒で搗いて白米にした」といった使い方をします。
最初に紹介するのは東歌で「搗く」がでくるものです。

おしていなと稲は搗かねど波の穂のいたぶらしもよ昨夜ひとり寝て(14-3550)
<おしていなといねはつかねど なみのほのいたぶらしもよ きぞひとりねて>
<<強いて嫌だと思って稲を搗いてあなたを待っていたのではないのよ。せっかく搗いたのに搗く前の稲穂が揺れるように心が不安定になっているの。昨夜はひとりで寝ることになってしまったから>>

何もしないで彼が来るのを待っているのは,時間の流れが遅いので,辛い力仕事だけど稲を搗いて待っていた彼女たけれど,結局来てくれなくて昨晩は一人で寝ることになった。搗く前の稲穂のように心がゆれ「待っている時間にやっていた稲を搗いた作業が無駄になったのよ」という彼女の気持ちが私には伝わってきますね。
次に紹介するのは,過去のブログでも何回か紹介している短歌です。

醤酢に蒜搗きかてて鯛願ふ我れにな見えそ水葱の羹(16-3829)
<ひしほすにひるつきかてて たひねがふわれになみえそ なぎのあつもの>
<<醤に酢を入れ,蒜を潰して和えた鯛の膾(なます)を食べたいと願っている私に,頼むからミズアオイの葉っぱしか入っていない熱い吸い物を見せないでくれよ>>

この短歌の説明は2009年11月15日の投稿をご覧ください。前半の部分は「なめろう」のような料理をイメージしている料理だったのでしょうか。期待していたその料理が出ずに,〆の吸い物が出そうなので,作者は非常に残念がっている表現力に私は感心します。
さて,最後に紹介するのは,長歌の一部です。

~ 天照るや日の異に干し さひづるや韓臼に搗き 庭に立つ手臼に搗き ~(16-3886)
<~ あまてるやひのけにほし さひづるやからうすにつき にはにたつてうすにつき ~>
<<~ 日ごとに干して,韓臼で搗き,庭に据えた手臼で搗いて粉にし ~>>

干した蟹を粉々にするために搗く部分です。なんでそんなことをするのかは,2015年3月1日の投稿で詳しく私の考察を述べています。
この長歌全体を是非見てほしいと私はお薦めします。
(続難読漢字シリーズ(29)につづく)

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