2018年4月22日日曜日

続難読漢字シリーズ(18)…鞘(さや)

今回は「鞘(さや)」について,万葉集を見ていきます。鞘は刀剣の刀身の部分を入れる筒のことです。
最初に紹介するのは,坂上郎女(さかのうへのいらつめ)が恋人の男性に贈った短歌です。

人言を繁みか君が二鞘の家を隔てて恋ひつつまさむ(4-685)
<ひとごとをしげみかきみが ふたさやのいへをへだてて こひつつまさむ>
<<人の噂が五月蠅いので,二鞘の中に隔てがあるように家を隔て(私に接することなく)恋い焦がれていらっしゃる>>

「二鞘」は2本の刀を一緒に入れることのできる鞘で,中に隔てがあるところから,「二鞘の」は「隔つ」にかかる枕詞とするようです。私は枕詞とはせず,そのまま現代訳にしてみました。
郎女は他人の噂を気にしてなかなか逢いに来てくれないことを嘆いて詠んだのでしょうか。
次は,柿本人麻呂歌集に出てくる旋頭歌を紹介します。

大刀の後鞘に入野に葛引く我妹真袖もち着せてむとかも夏草刈るも(7-1272)
<たちのしりさやにいりのにくずひくわぎも まそでもちきせてむとかもなつくさかるも>
<<太刀を使った後で鞘に入れることで思い出す入野で葛を引いているお前。あなたに袖付きの衣を作って着せてあげたいれで夏草を刈っているのよ>>

旋頭歌なので,男女の掛け合い(前半が男,後半が女)で現代語訳をしてみました。入野が地名なのか,入ることが許されている土地なのかは不明だそうです。その入野を引くために鞘がこの旋頭歌では使われています。
最後は,詠み人しらずの羇旅の長歌の一部です。

~ 道の隈八十隈ごとに 嘆きつつ我が過ぎ行けば  いや遠に里離り来ぬ  いや高に山も越え来ぬ  剣太刀鞘ゆ抜き出でて  伊香胡山いかにか我がせむ ゆくへ知らずて(13-3240)
<~ みちのくまやそくまごとに なげきつつわがすぎゆけば いやとほにさとさかりきぬ いやたかにやまもこえきぬ つるぎたちさやゆぬきいでて いかごやまいかにかわがせむ ゆくへしらずて>
<<~ 道の曲がり角や沢山の曲がり角でも, それごとに京を離れることを嘆きつつ我が旅行くと,なんと遠くまで住んでいた里を離れて来たことか,なんと高い山を越えて来たことか,剣太刀を鞘から抜くように速く,急いで旅してきた,伊香胡の山よこれから私はいかにしょうか,これからの道に迷って>>

この長歌の作者は本当に道に迷ったのか分かりませんが,故郷の近江の唐崎(次の反歌で詠まれている)のことが忘れられない気持ちの強さをどうしても表現したかったのでしょうか。
(続難読漢字シリーズ(19)につづく)

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