2017年2月25日土曜日

序詞再発見シリーズ(8) ‥ 奈良から見て兵庫は近いのか?遠いのか?

巻11,巻12の序詞で地名が出て来る万葉集の短歌の紹介を続けます。
今度は兵庫県の有馬を序詞に入れて詠んだ短歌です。

大君の御笠に縫へる有間菅ありつつ見れど事なき我妹(11-2757)
おほきみのみかさにぬへる ありますげありつつみれどことなきわぎも
<<大王御用達の菅笠を織るときに使われる有馬のスゲのように,私がいることをはっきりと示せた思ったが,わざと知らない振りをする私の恋人よ>>

有馬は神戸六甲山の北側に位置し,日本書紀には舒明天皇が保養に滞在したとして出てくる有馬温泉がある場所です。当時の有馬は湿地や草原が広がっていて,高品質な菅笠を編むことができるスゲが豊富に採取できる場所だったと私はこの短歌から想像します。
次は,淡路島を序詞の中で詠んだ短歌です。

住吉の岸に向へる淡路島あはれと君を言はぬ日はなし(12-3197)
すみのえのきしにむかへるあはぢしま あはれときみをいはぬひはなし
<<住吉の岸の向こうの淡路島の「あは」ではないが,「あはれ」と君を思わぬ日はないのだ>>

「あはれ」は「もののあわれ」と今も使われる「深くしみじみと心をひかれさせる状態」を意味します。
この短歌は万葉仮名でも「淡路嶋」と書いています。大阪の住吉の海岸から見た淡路島は遠く離れて淡く見えたのでしょう。
「淡い」とは「はかない」という意味につながり,なかなかはっきり見えない恋路になぞらえられたのかも知れません。
今回の最後は,兵庫県加古郡稲美町あたりにある印南野の川を序詞に詠んだ短歌です。

明日よりはいなむの川の出でて去なば留まれる我れは恋ひつつやあらむ(12-3198)
あすよりはいなむのかはのいでていなば とまれるあれはこひつつやあらむ
<<明日からは印南野の川の水が出ても消えてしまうように,あなたが居なくなれば,あなたへの気持ちが変わらない私はずっと恋焦がれて過ごすことになる>>

環境省のWebページには「印南野は水を通しやすい堆積層の台地で,瀬戸内海気候で雨量が少ない場所」と出ています。そのため,表面の土がすぐ乾いてしまい,川も水量が少なく,表面上は枯れた川のようになってしまうことも多かっただろうと私は想像します。
当時から,印南野は水不足が深刻で,水を確保するのに苦労をしたことが図らずも万葉集の短歌から読み取れます。
地図を見ると印南野には数多くのため池が今も残っているようです。この地域が,農耕等のためにため池が多く必要だったのがよくわかります。
なお,万葉集に「印南野」がこのほかに何首か詠まれていますが,海岸近くを想定した歌が多いです。海岸線が今より奥(山陽本線あたり)にあったと考えても良いかもしれません。
(序詞再発見シリーズ(9)に続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿