2015年4月4日土曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…尽く,尽くす(1) 心からお尽くし致します。ハイ!

今回から3回でアップする「尽く」「尽す」は,現代語で「尽きる」(現代語カ行上一段活用,古語カ行上二段活用),「尽くす」(現代語サ行五段活用,古語サ行四段活用)の両方の意味を代表しています。そのため,この3回で紹介する万葉集の和歌には,どちらかの意味で使われているものが出てきます。
今回は万葉集に「心尽す」「尽くす心」という表現を使った和歌が複数出てきますので,いくつかを紹介します。
始めは,おそらく若いころの大伴家持が交遊のあった(今で言うと付き合っていた)女性に贈った2首を紹介します。

思ふらむ人にあらなくにねもころに心尽して恋ふる我れかも(4-682)
おもふらむひとにあらなくに ねもころにこころつくして こふるあれかも
<<僕のことを思って下さる人でもないのに真心を尽くして恋しく思う僕なんだよ(片思いの僕なのです)>>

うはへなき妹にもあるかもかくばかり人の心を尽さく思へば(4-692)
うはへなきいもにもあるかも かくばかりひとのこころを つくさくおもへば
<<薄情なあなただなあ。これほどあれこれ僕に恋心を尽させるんだから>>

両方とも,家持にまだ女性へのアプローチに未熟さが残っている感じが私にはします。相手が自分のことに興味を示していないと決めつけています。自分はこんなに思っているのに相手の女性が応じてくれないという被害者意識を相手に訴えてどうするのでしょうか。
特に,相手の女性のどこが気に入っているか,好きなのかが具体的な表現がどこにもありません。
これでは相手に「若い女性なら結局誰でも良いんでしょ」という気持ちにさせてしまい,返事を出しにくくさせてしまいますね。
以上,私が若いころ女性に全く相手にされなかった経験からのコメントでした。
結局,口だけの「心尽くす」では,効果が無いようで,万葉集にはこの家持の相聞歌への返歌と思われる和歌はなさそうです。
次は詠み人知らずの女性が口先だけでない「尽くす心」を詠んだ短歌です。

大船の思ひ頼める君ゆゑに尽す心は惜しけくもなし(13-3251)
おほぶねのおもひたのめる きみゆゑにつくすこころは をしけくもなし
<<大きな船にでも乗ったように頼りきっていたあなたですもの,あなたとの恋に尽くしたわたしの心は少しも惜しいとは思いません>>

この短歌は,この前にある長歌の反歌です。長歌とこの短歌を見ると,相手の男性とどうしても別れなければならない何かしらの事情が出たのでしょう。
<別れた相手を責めない心の強さ>
この女性は,前の長歌でどれほど相手の男性を恋していたのか,恋しいけれど逢えない時の切なさで,胸が痛く,心が痛くなることばかりだった。これから別れても同じ状況が続くが,今度直接逢える時が来たら,そんな切ない気持ちはパッと晴れるに違いないと詠んでいます。
そして,この反歌で,相手が自分の心に安らぎ与えてくれる存在だったことが,恋しく思った,好きだった理由であることを述べて,これまでの恋人同士であった時期が本当に良かったとしめています。相手の男性をまったく責めていないし,かといって別れを全く受け入れられないとわがままな姿も微塵もないと私は感じます。
長い人生では大切な人との悲しい別離を受け入れなければならない時がさまざまあります。この二人は仏教が解く永遠の生命という考え方から,どこかで再会していることを願いたいですね。
動きの詞(ことば)シリーズ…尽く,尽くす(2)に続く

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