2012年9月17日月曜日

今もあるシリーズ「衾(ふすま)」

今「ふすま」と言えば和室の押し入れの引き扉,または和室間を仕切る引き扉としての「襖」をイメージされるかもしれません。
しかし,ここでの「衾」は「襖」ではなく,寝るときに身体に掛けるものを意味します。すなわち,現代の「毛布」「タオルケット」「肌掛布団」のようなものを指します。
当時はまともな暖房設備もない時代ですから,当然何か身体に掛けて寝ないと寒さに耐えられないはずです。日常品ですからいろいろな種類があったことが万葉集から読み取れます。
次は万葉集にでくる衾の種類です。

麻衾(あさぶすま)‥麻布で作った衾。保温効果は少なく,夏用か?
麻手小衾(あさでこぶすま)‥麻衾と同。小衾は「かわいい衾」といった意味か?
栲衾(たくぶすま)‥コウゾの繊維で作った衾。白い色で清潔感があったのかも? 「白」「新」の枕詞でもある。
まだら衾‥まだら模様の布で作った衾。さまざまな加工を施した高級品か?
むし衾‥「むし」の意味は諸説あり。万葉仮名が「蒸被」なので「暖かい衾」の意か?
これらを詠んだ万葉集の短歌か
らいくつか紹介しましょう。

蒸衾なごやが下に伏せれども妹とし寝ねば肌し寒しも(4-524)
むしふすまなごやがしたにふせれども いもとしねねばはだしさむしも
<<暖かくて柔らかい衾の下で寝ても,貴女と共寝をしなければ私の肌は暖まらないのだよ>>

この短歌は,藤原不比等(ふぢはらのふひと:659-720)にいた4人の息子の内,末弟であった藤原麻呂(ふぢはらのまろ:695-737)が坂上郎女(さかのうへのいらつめ)贈った3首の内の1首です。
藤原麻呂は未亡人であった坂上郎女の家へは妻問をする関係にあったようです。
今でも相手の女性に「いくら柔らかくて暖かい毛布で寝ても,君と一緒でなければ心が寒い」な~んて,使えそうですね。

天の川 「たびとはん。ええ年して何言うてんねん。あんさんにはそんな戯言使えまへん。相手が『気持ち悪いわ』ちゅうのに決まってるやんか。」

うるさいぞ,天の川君!
さて,気を取り直して次に行きましょう。詠み人知らずの(駿河地方の)東歌です。

伎倍人のまだら衾に綿さはだ入りなましもの妹が小床に(14-3354)
きへひとのまだらぶすまに わたさはだいりなましもの いもがをどこに
<<伎倍(静岡県浜松市)の人が作るまだら色に染めた衾に綿として中に入ってよ,お前の可愛い床にずっと居るざあ>>

もう1首,詠まれた地域はわかりませんが,女性作と思われる東歌を紹介します。

庭に立つ麻手小衾今夜だに夫寄しこせね麻手小衾(14-3454)
にはにたつあさでこぶすま こよひだにつまよしこせね あさでこぶすま
<<私の麻手小衾(麻で作られた可愛い衾)さん。今宵だけでも愛しいあの人を来させてね。麻手小衾さん>>

いろんな衾を作る産地が東国に多かったのかもしれませんね。もしかしたら「麻手小衾」は万葉時代の地域ブランド名だったりして。
今もあるシリーズ「袖(そで)」に続く。

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