2010年2月11日木曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…待つ(1)

たびとです。1ヵ月間諸事情があり,当ブログへの投稿が滞っていましたが,何とか再開にこぎつけることができました。
奇しくも,今月末で当ブログを始めて1年になろうとしています。
お約束していた新たなシリーズをこの節目に開始することにします。
<新しいシリーズ>
さて,新しいシリーズは,万葉集に現れる動詞に着目します。
今まで何度かこのブログでも述べていますが,万葉集の和歌が創られた時代は中国,朝鮮などの外国から外来文化が怒涛の如く流入していた時代です。
辺境の島国日本が一種のグローバル化に対応しようとしていた時代といえると私は思います。
奈良時代より後の時代で私が考えるグローバル化の時代は,「龍馬伝」,「坂の上の雲」などの舞台になっている明治維新明治時代の日本。そしてまさにインターネットを中心とするIT化が急速に時代を変革している今の日本です。
こういった時代では,多くの外来の言葉が使われるようになります。
ちなみに,万葉時代では漢語梵語が漢字の形で外来語としてたくさん入ってきたのです。
当然発音は当時の外国語(中国語等)の発音に近い形で使われました。いわゆる音読み漢字です。
当時流入し,多用された外来語はほとんど名詞や形容詞だと私は思います。
話を分かりやすくするため,今の外来語(多くが英語由来)に当てはめてみましょう。
デパート,カレンダー,バレンタインデー,デート,ドア,キッチン,エレベーター,レシート,ポイント,サービス,ランチ,チケット,イベント,ブログ,インターネット,スクールカラー,メールなどすべて名詞です。
また,ポジティブ,アクティブ,クール,ウェット,ドライ,ホット,スーパー,ナイス,グッド,ベスト(best),ビッグ,ミドル,ラージ,ショート,ロング,アメリカン,パワフル(powerful),シャイなどが形容詞の外来語です。
いっぽう,動詞の外来語は日常的には使われるようになるには時間を要するような気がします。
アップ,ダウン,キャッチ,キック,ドイマイ(don't mind),ファイト,プッシュ,リサーチ,サーベイ(survey),ドライブ,キープなどが動詞系の外来語としてありますが,名詞や形容詞の外来語に比べたらある種の専門家間でのみ使う傾向が多いのかもしれません。
<日本人が英会話を苦手とする理由>
余談ですが日本人が英会話を苦手とするのは,知っている語彙を増やすことが語学上達だと思いこみ,動詞と絡めて覚えないことが原因の一つかも知れませんね。
今も本来動詞である外来語を「テークアウトする(持ち帰る)」「テークオフする(離陸する)」という言い方で動詞を名詞のようにしてやまと言葉の動詞「~する」を付けてしまう傾向があります。
そういう意味で,母国語の動詞は外来語の影響を受けにくいという性格があると私は推察するのです。
万葉時代もおそらく名詞類の外来語は比較的浸透が進んでいたかも知れませんが,動詞は大和ことばのまま使われていたと考えられます。
私が万葉集の動詞に着目する理由は,外来語の影響を受けにくく,大和ことば本来(日本人本来)の用法による感情表現がより特徴的に見えてくると思うからです。
<動詞の「待つ」を最初に選んだ理由>
さて,このシリーズで最初に取り上げる動詞は「待つ」です。
人はいつも常に何かを待っている動物なのかも知れません。
たとえば,狩猟で獲物が油断するのを待つ,農作物が収穫できるまで待つ,自分や大切な人の病気が治るのを待つ,合格・決定・承諾などの知らせを待つ,乗り物の到着や出発の時を待つ,春や秋など次の季節を待つ,恋人の到着待つ,戦地や遠方に赴任した家族の帰りを待つなどです。
今のように景気が良くない世相だと,景気の回復を待つ,吉事や運気の好転を待つ人も多いのかもしれません。
<万葉集で「待つ」を詠んだ主な和歌>
万葉集に目を向けると「待つ」という動詞が出てくる和歌が300首近くもあります。
次の短歌はその中で私が比較的有名かなと思うものです。

 熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな (1-8:額田王
 楽浪の志賀の辛崎幸くあれど大宮人の舟待ちかねつ (1-30:柿本人麻呂
 君が行き日長くなりぬ山尋ね迎へか行かむ待ちにか待たむ (2-35:磐姫皇后
 あしひきの山のしづくに妹待つと我れ立ち濡れぬ山のしづくに (2-107:大津皇子
 我を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを (2-108:石川女郎
 君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く (4-488:額田王
 来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを (4-527:坂上郎女
 あしひきの山より出づる月待つと人には言ひて妹待つ我れを (12-3002:作者未詳)

万葉集で「待つ」が使われている和歌はすべての巻に存在し,巻11が最も多く40首余りの和歌で使われています。
ちなみにもっとも少ない巻は巻1で3首です。
今回は概要のみでしたが,次回より何回かは万葉集に現れる「待つ」についていくつかの角度から感じたところを述べていきます。

 天の川 「ところでたびとはんは今は何を待ってはるんや?」

そうだね~。今は週末を楽しみにして待ったり,春の到来を心待ちにしながらITの仕事に取り組んでいるね。ところで,天の川君はいつも何を待っているのかな?

 天の川 「飯(めし)!」

待つ(2)に続く。

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