2015年5月9日土曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…折る(3:まとめ) 植物は無闇に折らず,あるがままがいいですね

我が家の庭(マンションの専用庭)に20年以上前から植えていたサクランボは,例年全く実をつけないか,つけても数粒だったのですが,今年は比較的たくさん実をつけてくれました。

手で折ってしまうのは惜しい気がして,そのままにして,毎日色づきの変化を楽しんでいます。そのうち,鳥が食べてしまうかもしれませんが。
さて,「折る」の最後は初回に紹介した「梅の花を折る」以外の植物を「折る」について,万葉集を見ていきます。
まず,大伯皇女(おほくのひめみこ)が弟の大津皇子(おほつのみこ)が処刑されたことを悲しむ挽歌に出てくる「馬酔木」からです。

磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君が在りと言はなくに(2-166)
いそのうへにおふるあしびを たをらめどみすべききみが ありといはなくに
<<岩の上に咲く馬酔木を手折りました。ただ,お見せしたいあなたがまだ生きているとは誰も言う人はいない>>

馬酔木(アセビ)は,毒があるけれど,そのため虫にも食われず,清涼な白い小さな花を咲かせます。清潔感のイメージが強かった大津皇子にお似合いの花だったのかもしれませんね。
次は,大伴家持が(まだ若いころ?)詠んだ「なでしこ」です。

我が宿のなでしこの花盛りなり手折りて一目見せむ子もがも(8-1496)
わがやどのなでしこのはな さかりなりたをりてひとめ みせむこもがも
<<私の庭の撫子の花が今を盛りと咲いています。手折って一目見せてあげられる娘がいたらなあ>>

恐らく,家持は撫子の可憐で美しい色に魅了されたのでしょう。
次は,高橋虫麻呂歌集から転載されたという短歌で「桜」です。

暇あらばなづさひ渡り向つ峰の桜の花も折らましものを(9-1750)
いとまあらばなづさひわたり むかつをのさくらのはなも をらましものを
<<時間があれば川を渡って向こうの峰まで行き,峰の桜の花を手にとってみたいほどだ>>

きっと,そばまで行ってみたくなほど見事な山桜が遠くに見えたのでしょう。
最後は,家持が越中平城京いる妹の留女女郎(とどめのいらつめ)に贈った短歌に出てくる「山吹」です。

妹に似る草と見しより我が標し野辺の山吹誰れか手折りし(19-4197)
いもににるくさとみしより わがしめしのへのやまぶき たれかたをりし
<<あなたに似た可愛い草だと見たので、私がしるしをつけた野辺の山吹なのに、誰が手折ってしまったのだろう>>

この短歌は,女郎が家持に贈った短歌(山吹を採って,寂しく平城京の自宅に残った家持の妻坂上大嬢(さかのうへのおほをとめ)に渡したよ)への返歌です。渡した山吹できっと大嬢への私の恋しい思いは伝わったという意味かと私は解釈します。大嬢はその後越中の家持のもとへ行ったと想像しますが,この短歌のやり取りが,越中へ行くきっかけになったのなら,面白いですね。
では,これで「折る」はお終いにして,次回からは「栄ゆ」について,万葉集を見ていきます。
動きの詞(ことば)シリーズ…栄ゆ(1)に続く。

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