啓蟄もとっくに過ぎ,いろいろな昆虫類が動き出す頃になってきました。
万葉集にでてくる昆虫については,多くの人がいろいろなところで既に紹介していると思いますが,私なりに考えてみました。
蜻蛉(あきづ)=トンボ,蚕(こ)=カイコ,桑子(くはこ)=カイコ,蜻蛉(くも),蟋蟀(こおろぎ),蠅(はえ),蜾蠃(すがる)=シガバチ,蝉(せみ),蜩(ひぐらし),蛍(ほたる)などが万葉集に出てきます。
その姿・形,鳴き声,音,光が当時の人たちに何を感じさせたのでしょう。
万葉集で昆虫類が出てくる和歌を見ると,それぞれが持つ特徴を人の特性や自然の変化に当てはめているような使い方が多いように思います。
例えば,蚕の繭は母がわが娘を守るイメージであり,すがるのくびれた腰は美しい乙女の腰のイメージであり,蜩の鳴き声は悲しい鳴き声のイメージなのです。
足乳根の母が飼ふ蚕の繭隠り いぶせくもあるか妹に逢はずして (12-2991)
<たらちねの ははがかふこの まよがくり いぶせくもあるか いもあはずして>
<<お母さんが飼う蚕のように貴女が繭に隠され,僕は貴女と逢えないので心が沈んでいます>>
~腰細の すがる娘子の その顔の きらきらしきに 花のごと~(9-1738)
<~こしぼそのすがるおとめの そのかほのきらきらしきに はなのごと~>
<<~まるですがるのように腰がくびれたスタイル抜群の若い女性,その顔はまるできらきら輝く花のように美しく~>>
蜩は時と鳴けども 片恋に手弱女我れは 時分かず泣く(10-1982)
<ひぐらしはときとなけども かたこひのたわやめわれは ときわかずなく>
<<ヒグラシの鳴く時期は決まっているけれど,片思いをしている気の弱い女の私はいつも悲しい悲しい悲しい(カナカナカナ)と泣いています>>
万葉集の編者が昆虫類さえも題材にする和歌も集めたのは,日本人と日本語が持つ表現力の豊かさを示したかったのかも知れません。
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