今回は幾許(ここだ)について,万葉集を見ていきます。「幾許」は「たくさん」「たいそう」「はなはだ」という意味です。
最初に紹介するのは,万葉集の愛好家なら多くの方が知っている,そして,このブログでも何回か紹介している東歌です。
多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子の幾許愛しき(14-3373)
<たまかはにさらすたづくり さらさらになにぞこのこの ここだかなしき>
<<多摩川にさらす手織りの布がさらにさらにきれいになるように,どうしてあの娘がこんなに愛おしいのだろう>>
この短歌の良さはやはり作者の「幾許(ここだ)」の気持ちがポイントといえるだろうと私は思います。
次に紹介するのは相手が雪が降る中逢いに来てくれた喜びを詠んだ娘子作の短歌です。
ぬばたまの黒髪濡れて沫雪の降るにや来ます幾許恋ふれば(16-3805)
<ぬばたまのくろかみぬれて あわゆきのふるにやきます ここだこふれば>
<<黒髪は沫雪が降って濡れています。それでも貴方来てくれました。私がいっぱいあなたを慕っていたからてすね>>
この短歌も「幾許」の気持ちの大きさがポイントだと私は思います。
最後の短歌は,橘諸兄の使者として越中の大伴家持を訪れた田辺福麻呂(たなべのさきまろ)が宴席で詠んだものです。
いかにある布勢の浦ぞも幾許くに君が見せむと我れを留むる(18-4036)
<いかにあるふせのうらぞも ここだくにきみがみせむと われをとどむる>
<<一体どんな処なんでしょう,布勢の浦は。こうまで熱心に貴君が見せようと私を引き留めるのは>>
家持が京から来た福麻呂に「布勢の浦は絶景だから是非見てから帰ってくれ」と誘ったのでしょう。
布勢の浦は,今の立山連峰を遠くに臨む氷見海岸あたりと思われます。
こういう強い(幾許くに)誘いを使者の福麻呂にした家持には,橘諸兄にも越中に来てほしいという強い気持ちがあったのでしょうか。
(続難読漢字シリーズ(14)につづく)
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