今回は「薦(こも)」について,万葉集を見ていきます。「薦」はマコモの古称で使われる場合と薦で作った筵(むしろ)や畳(たたみ)という意味で使われる場合があります。
最初に紹介するのは,加工品でない植物である薦を詠んだ東歌です。
まを薦の節の間近くて逢はなへば沖つま鴨の嘆きぞ我がする(14-3524)
<まをごものふのまちかくて あはなへばおきつまかもの なげきぞあがする>
<<薦の節の間のようにとても近くにいるのに逢えなので,私は沖のマガモのように嘆いていますよ>>
「まを薦」は「薦」の美称と考えられるので,「薦」と現代訳としました。
マコモは,節をもつ小さな「マコモダケ」と呼ばれるものができます(食用)。その節と節の間が近いように,すぐ近くにいるのに逢いに来てくれない寂しい気持ちが,マガモの鳴き声と同じ悲しげな泣き声を発しているという作者の気持ちが素直に出ていると私は感じます。
次に紹介するのは,薦で編んだ敷物について詠んだ短歌です。
畳薦へだて編む数通はさば道の芝草生ひずあらましを(11-2777)
<たたみこもへだてあむかず かよはさばみちのしばくさ おひずあらましを>
<<畳薦は何度も薦を通して編むといいます。そのように何度もあなたが来てくだされば,道の芝草も生え放題にならないでしょうに>>
万葉時代,水辺に生える大量の薦を刈り取って乾燥させ,それを編んで筵や畳に加工したのだと思います。
畳は筵よりもきめ細かく編み,表面が筵に比べてなめらかで,座り心地が良かったのかも知れません。丁寧に編み込んで作られる畳薦のイメージが,この恋の歌で見えてくるように私は感じます。
さて,最後に紹介するのは,薦で作った敷物が元の薦の1本1本にバラバラに朽ちても恋人の来訪を待ち続ける気持ちを詠んだ短歌です。
ひとり寝と薦朽ちめやも綾席緒になるまでに君をし待たむ(11-2538)
<ひとりぬとこもくちめやも あやむしろをになるまでに きみをしまたむ>
<<一人で寝ているだけで薦の敷物が朽ちてしまうでしょうか。 それでも,その敷物が紐になるまでもあなたを待ちます>>
今回紹介した短歌3首はすべて作者が分からないもので,私は女性が詠んだものだと感じます。
この3首で「薦」というものが,寝具や敷物の材料として定着していたことが改めて確認できたのではないでしょうか。
(続難読漢字シリーズ(15)につづく)
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