今回は「細れ(さざれ)」について,万葉集を見ていきます。「細」を「さざれ」と読むのは,難読としました。「細れ」というと思い出すのが,日本国歌に「~さざれ石の~」として出てくる言葉です。
万葉集でも「細れ石」を詠んだ東歌があります。最初にそれを紹介します。
細れ石に駒を馳させて心痛み我が思ふ妹が家のあたりかも(14-3542)
<さざれいしにこまをはさせて こころいたみあがもふいもが いへのあたりかも>
<<小石だらけの道に馬を走らせて馬が大変だと心が痛むほどに思い詰めている彼女の家は多分ここらあたりかな>>
悪路の近道を選んで馬を走らせたのかも知れません。それだけ「早く彼女に逢いたい。馬には悪いが」といった作者の意図でしょうか。
さて,次は同じく細れ石を詠んだ東歌ですが,詠み方が「さざれし」となっています。東国の一部の方言かもしれません。
信濃なる千曲の川の細れ石も君し踏みてば玉と拾はむ(14-3400)
<しなぬなるちぐまのかはの さざれしもきみしふみてば たまとひろはむ>
<<信濃の国にある千曲川の小石も,あなた様が踏んだならば玉のように大切に思って拾おう>>
状況がよくわからず,想像に任せるしかないこの短歌ですが,住んでいる場所が千曲川の近くで,恋人は何らかの事情で旅立った。その時,千曲川を渡ったか,千曲川の河原に沿って下っていったのかも知れません。残された女性が詠んだ短歌と私は考えます。
最後は,「細れ波」を詠んだ短歌ですが,初瀬川には海にある磯が無くて残念だという長歌の反歌を紹介します。
さざれ波浮きて流るる泊瀬川寄るべき礒のなきが寂しさ(13-3226)
<さざれなみうきてながるる はつせがはよるべきいその なきがさぶしさ>
<<さざ波を水面に浮べて流れる初瀬川 だが釣り舟を寄せられそうな磯のないのが何とも寂く物足りない>>
山の中や盆地を流れる初瀬川に海の磯のような平らな場所を求めても無駄に決まっているのに,なぜこんな長歌と反歌を詠んだのかわかりません。作者が伊勢まで行くことが遠くて叶わず嘆いて詠んだのかも知れないと私は想像します。
(続難読漢字シリーズ(18)につづく)
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