今回は防人(さきもり)という言葉が出てくる万葉集の短歌を紹介します。防人を「さきもり」と読める人は結構いらっしゃるかもしれませんが,漢字の読みから想像できないという意味で難読としました。
防人の制度は,大宝律令などで飛鳥時代から奈良時代に掛けて行われた,中国,朝鮮等から攻めてこられた場合を想定して九州に置かれた防衛軍でした。
防人の徴兵は,東国からも多数行われたことが万葉集の防人の歌から分かります。
この東国からの徴兵の厳しい状況を詳らかに万葉集に記録したのが大伴家持でした。
最初に紹介するのは,巻7にある古歌17首の中に出てくる短歌です。
今年行く新防人が麻衣肩のまよひは誰れか取り見む(7-1265)
<ことしゆくにひさきもりが あさごろもかたのまよひは たれかとりみむ>
<<今年新任で派遣される防人が着る麻布の粗末な衣の肩のほつれは誰が繕ってやるのか>>
家持は天平勝宝7(755)年あたりから担当していた,防人を難波の港から九州に順次派遣する職務中に,この古歌を見つけたようです。万葉集に残しただけでなく,着るものにも事欠く貧しい生活者が派遣される防人の悲哀を感じ,防人に同情感をもったのかもしれません。
次に紹介するのは,東歌の巻(巻14)に「防人」が登場する短歌です。
防人に立ちし朝開の金戸出にたばなれ惜しみ泣きし子らはも(14-3569)
<さきもりにたちしあさけのかなとでに たばなれをしみなきしこらはも>
<<防人の徴兵され,家の戸を出たあの夜明け方の門出に別れを惜しんで泣いた子が思われる>>
「金戸」は金属でできた戸とすれば,作者の家は結構立派な家と想像できます。徴兵された作者は東国でも裕福な家の若者だったのかもしれません。
最後に紹介するのは,巻20の防人の歌群から那須郡(なすのこほり:今の栃木県那須町付近)の大伴部廣成(おほともべのひろなり)という徴兵された作者の短歌です。
ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がする時に防人にさす(20-4382)
<ふたほがみあしけひとなり あたゆまひわがするときに さきもりにさす>
<<「ふたほがみ」氏は悪い人である。なぜなら,私が「あたゆまひ」になっている時に,私を防人に指名する>>
東国において,防人の徴兵は地域にとって深刻な問題だったのでしょう。
誰が徴兵され,誰が徴兵を赦されるのか? どういった基準で徴兵者に選ばれるのか? その基準が住民に明確に知らされていたとは限りません。
徴兵された人は不満が発生する当然でしょう。
「ふたほがみ」とは何かわかりませんが,作者とってもよく分からない悪い徴兵選抜基準をイメージしているものだと私は思います。
また,「あたゆまい」とは,「ゆまい」が「やまい」の東国方言であれば,何かの病気に作者は罹っていた可能性があります。
そうなると,「何で健常者でない俺が?」ということになってしまいそうです。
世界には徴兵制度を実施している国はそんなに多くないようです。将来日本でこんな歌が詠まれることのないことを祈りたいものです。
(続難読漢字シリーズ(17)につづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿