今回は,「水」を序詞に詠んだ万葉集の短歌を紹介します。ところで,九州豪雨で被害にあわれた方々に,心よりお見舞い申し上げます。
日本は万葉時代においても四季がはっきりして,年間雨量が多く(時として豪雨),川,池,沼,湖,雨などで水に接する機会は日常的だったり,日常的でなくても少なくなかったと想像できます。
今年はもう少しすると梅雨が明けそうです。
豪雨の被害を受ける一方で,水不足が心配な地域も出るかもしれません。
万葉時代から,水と親しんできた万葉人。万葉集にも「水」が多くが詠まれています。
その中でも,序詞はそこに出てくる言葉の位置づけやイメージを特定するのにもってこいと私は考えます。
さて,「水」を序詞に詠んだ短歌で最初に紹介するのは,明日香川の水をテーマとしたものです。
明日香川水行きまさりいや日異に恋のまさらばありかつましじ(11-2702)
<あすかがはみづゆきまさり いやひけにこひのまさらば ありかつましじ>
<<明日香川が水の勢いが強くなるように日増しに恋心が強くなっていくとし分は生きていけるのか>>
当時の明日香川が今日の飛鳥川であれば,確かにさほど大きな川ではないので,大雨が降れば,あふれるほどの水量となってしまうのかもしれません。
万葉人は明日香川の水量の変化をこの短歌の序詞のように見ていたことがわかりそうです。
次は別の川を取り上げた1首です。
ま薦刈る大野川原の水隠りに恋ひ来し妹が紐解く我れは(11-2703)
<まこもかるおほのがはらのみごもりに こひこしいもがひもとくわれは>
<<マコモが刈れるような広い大野川の河原が増水して分からなくなるように,他人に分からないよう恋してきた彼女の下着の紐を解いている私なのだ>>
枕詞らしい部分も訳しました。なかなか,きわどい短歌ですね。
秘密の恋ほど燃えるものはないということですね。
さて,今回の最後は山間部の急流の水を序詞に詠んだ短歌です。
あしひきの山下響み行く水の時ともなくも恋ひわたるかも(11-2704)
<あしひきのやましたとよみ ゆくみづのときともなくも こひわたるかも>
<<大きな山の下の沢を音を轟かせて流れてゆく水のように,私の心は絶え間なく恋心を持ち続ける>>
この短歌も枕詞を訳してみました。
大きな山の沢には,水が絶え間なく流れる渓流が似合います。
この短歌の作者が,それを知っている人とすれば,仕事でいろいろな場所を旅する人なのかもしれません。
その人には都に残した妻が居て,旅先の渓流の水の流れの豊富さを見て詠んだのかも知れませんね。
この夏,どこかの渓流に行って,涼みたくなりました。
(序詞再発見シリーズ(21)に続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿