2017年7月23日日曜日

序詞再発見シリーズ(23) … 川もいろいろあるよ

今回は「波」でも。川の波である「川波」を万葉集の序詞に詠んだ短歌を紹介します。
最初は,宇治川の「川波」です。

宇治川の瀬々のしき波しくしくに妹は心に乗りにけるかも(11-2427)
うぢかはのせぜのしきなみしくしくに いもはこころにのりにけるかも
<<宇治川の瀬々に寄せる波が繰り返すように,妻は私の心に繰り返し乗りかかってきたことよ>>

宇治川は流れが速く,水深の浅いでは,水流がぶつかり,できたがしきりに寄せている状況なのでしょうか。
熱い夏,奈良盆地の京にいる人にとっては,冷たい水が勢いよく流れている宇治川は避暑地として万葉時代から知られていたのかも知れません。
宇治川沿いに豪華な別荘を作り,妻を呼び,そこで周りの目を気にせず,妻と過ごせればどんなに良いかと,高級官僚の中には夢に描いた人がいても不思議ではありません。この宇治川のイメージは,後の平安時代にも引き継がれていきます。たとえば,たとえば,平等院源氏物語の「宇治十帖」のように。
次は,佐保川の「川波」の地味さを序詞に詠んだ短歌です。

佐保川の川波立たず静けくも君にたぐひて明日さへもがも(12-3010)
さほがはのかはなみたたず しづけくもきみにたぐひて あすさへもがも
<<佐保川に川波がたたないで静かなように,あなたさまに静かに寄り添っままが明日からも続いてほしい>>

最初の短歌の宇治川と佐保川はまったく正反対です。
奈良の京の中心部に流れる佐保川は,平地の川のため,水量も少なく,水の流れる音もしないほどとても静かな流れだったのでしょう。夏の避暑になるような爽快感は無かったかも知れませんが,静かに流れる水は,心を静ませる効果があったのかも知れません。
最後は,今の天理市の東部の山の中から流れ出た小さな川とされる布留川の「川波」を序詞に詠んだ短歌です。

との曇り雨布留川のさざれ波間なくも君は思ほゆるかも(12-3012)
とのぐもりあめふるかはのさざれなみ まなくもきみはおもほゆるかも
<<急に一面曇って雨が激しく降って布留川にさざ波が立っている。それが絶え間ないのと同じようにあなたのことを思っていのです>>

この短歌,布留川のことを読んでいるのではなく,単に雨が「降ったときの川」という見方が当然できそうですが,一応定説に従ってみました。
今,ゲリラ豪雨とか,線状降水帯という天気用語が要注意の自然災害の一つとして,ニュースや天気情報で出ています。小さな川は急に増水し,激しい濁流となって,川の中州や岩にぶつかって,波立っている状態が発生します。雨が降り続けば,氾濫や洪水も起き,その状態も解消しません。
日ごろはおとなしい布留川もいざ大雨が降ると激流に急変することは,当時知られていたのかも知れませんね。
(序詞再発見シリーズ(24)に続く)

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