前回までで植物を詠んだ万葉集の序詞をもつ短歌の紹介を終わり,今回からは序詞に動物を詠んだ短歌を見ていくことにしましょう。
今回と次回は鳥を見ていきます。
最初は尾が長いヤマドリを序詞で詠んだ短歌です。
思へども思ひもかねつあしひきの山鳥の尾の長きこの夜を(11-2802)
<おもへどもおもひもかねつ あしひきのやまどりのをの ながきこのよを>
<<思っても思っても思い尽きない。あしひきの山鳥の尾のように長いこの夜は>>
ヤマドリはキジ科の野鳥で,群馬県の県鳥に指定されているそうです。ただ,なかなか見かけることが少ない鳥のようです。私は実物を自然の中で見たことがありません。
この短歌から,ヤマドリの尾が長いことは当時からよく知られており,長いことの喩えとしてヤマドリの尾という表現がよくつかわれていたのだろうと感じます。
この短歌の類型として次の短歌が万葉集に出てきます。
あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む(11-2802S)
<あしひきのやまどりのをのしだりをの ながながしよをひとりかもねむ>
<<あしひきの山鳥の尾が垂れてしまうほど長いのと同じほど非常に長く感じるこの夜を一人で寝ることになるのだろうか>>
これ,どこかで見たことがありますよね。そう百人一首の中に柿本人麻呂が詠んだとして出てくる短歌と同じです。
この短歌は,最初の短歌に対して,ある本ではこのように読まれているとされているものです。
どの写本にこの短歌があって,いつごろ誰が詠んだか,そして,これがどうして人麻呂作として百人一首に入ったかは不明のようです。
ただ,いずれにしても持統天皇や山部赤人の短歌のように,万葉集が百人一首を選ぶ際に何らかの形で影響したのは間違いがなく,この短歌もその一つかもしれませんね。
次は,万葉集によく出てくるホトトギスを序詞に詠んだ短歌です。
霍公鳥飛幡の浦にしく波のしくしく君を見むよしもがも(12-3165)
<ほととぎすとばたのうらに しくなみのしくしくきみをみむよしもがも>
<<霍公鳥が飛ぶ飛幡の浦に絶え間なく寄せては返す波のように君と絶え間なく何度も逢える方法はないものか>>
この飛幡の浦は,今の北九州戸畑区を指しているようです。ホトトギスとの関係は不明ですが,万葉時代,北九州にもホトトギスがいた可能性は否定できません。
もしかしたら,飛幡の浦は東南アジアから日本に渡ってくるホトトギスの経由地だったのかもしれません。ちなみにホトトギスの尾も少し長めです。
万葉時代に鳥たちもいろいろなイメージをもって和歌に詠まれたのでしょう。次回も鳥を扱います。
(序詞再発見シリーズ(18)に続く)
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