2015年4月18日土曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…尽く,尽くす(3:まとめ) そう,自分の思いは丁寧に丁寧に言わなきゃ伝わらないのだ

「尽く」,「尽くす」の最終回は,「言葉を尽くす」について,万葉集を見ていきましょう。
まず,以前このブログでも紹介した坂上郎女(さかのうへのいらつめ)の代表的な恋の短歌を紹介します。

恋ひ恋ひて逢へる時だにうるはしき言尽してよ長くと思はば(4-661)
こひこひてあへるときだに うるはしきことつくしてよ ながくとおもはば
<<恋しい恋しいと思ってきて,ようやく逢えた時くらいは私が喜ぶ言葉をありったけ言い尽くしてくださいな。これからも二人の仲を長く続けようと思ってくださるならね>>

この短歌は,ありったけやさしい言葉を尽くして欲しい郎女の気持ちが強く表れています。
「好きだよ」「愛してる」「もう離さないから」「君は僕のすべてだよ」な~んて,「うるはしき」言葉を何度でも恋人の男性から聞きたいのが時代を超えた女性の心理ですよね。
さあ,世の男性諸君! 頑張って(態度だけでなく)繰り返し何度も口に出して恋しい相手に思いを告げなさい! こんなことをこの短歌は教えてくれているのかも。
次は,万葉集の巻16に出てくる竹取翁(たけとりのをきな)に対して,若い娘多たちが贈った短歌の1首です。

あにもあらじおのが身のから人の子の言も尽さじ我れも寄りなむ(16-3799)
あにもあらじおのがみのから ひとのこのこともつくさじ われもよりなむ
<<とはいうものの,私の身は普通の人の子でうまく言葉を尽くして表現できないですが,私もおじいさんが言う和歌の大切さに同感します>>

竹取翁といっても,かぐや姫が登場する竹取物語とは無関係で,80歳を超える老人が,若い娘たちに人の心を動かす和歌の大切さを表現した長歌・反歌2首を贈り,それに感心した娘たちが返歌をしたのです。
当時本当にこんな和歌のやり取りがあったのか,それとも教育的見地から創作されたお話なのか私には分かりません。しかし,万葉集に出てくる和歌の多様性を表すものの一つとして私は評価したいと思います。
さて,今回の最後は馬国人(うまのくにひと)という人物が天平勝宝8年,河内(今の大阪府東大阪市周辺)の自宅での宴にいた大伴家持に送った短歌の1首です。
万葉集で馬国人が詠んだとされる和歌はこの1首のみです。

にほ鳥の息長川は絶えぬとも君に語らむ言尽きめやも(20-4458)
にほどりのおきながかはは たえぬともきみにかたらむ ことつきめやも
<<息長川の流れが絶えることはあっても、あなたにお話ししたい言葉が尽きることはありません>>

息長川は滋賀県の伊吹(息吹)山から琵琶湖に注いでいた川であったようです。現在も,滋賀県米原市に「息長」という地名が残っています。
馬国人は,家持が難波で東国から集められた防人を筑紫へ船で送る役人をしていたときに,親交があったのかもしれません。そして,家持が難波での役目を解かれたとき,この宴をセッティングした可能性があると私は考えます。
さて,万葉集は,4500首余りという和歌,そして題詞,左注を通して,膨大な言葉を「尽くして」後世の私たちに何を示そうとしたのか,私の興味はまったく尽きません。
動きの詞(ことば)シリーズ…折る(1)に続く。

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