2012年9月2日日曜日

今もあるシリーズ「網(あみ)」


万葉集で「網(あみ)」の意味の言葉が入っている和歌は20首以上あります。
網は今でもいろいろな用途で使われていますね。
たとえば,魚,鳥,獣,虫などを捕る網,投網(とあみ),旋網(まきあみ),網場(あば,あみば),魚を焼く網,一網打尽(一回の網で捕り尽くすこと),部屋の網戸,土地などを仕切る金網や鉄条網などがあります。
また,概念的な「網」の用語として,インターネットを支える通信網,テレビの放送網,警察の情報網・監視網,スパイ組織の諜報網,人間の神経網,鉄道や道路の交通網,蜘蛛の巣を形作る円網,網目模様などがありそうです。
そして,単純に「あみ」と読まない地名もたくさんあります。網引(あびき):兵庫県,網干(あぼし):兵庫県,網代(あじろ):静岡県,網走(あばしり):北海道,網田(おうだ):熊本県,網場(あば):長崎県などです。
さて,万葉集では「網」だけで使われる場合と次のような熟語で出てくる場合があります(地名に使われている場合を除きます)。

小網(さで)‥2本の竹を交叉して三角状として,網を張って袋状にしたもの。
網引(あびき)‥網を引いて魚を捕ること。
網子(あご)‥地引網を引く漁師。
網代(あじろ)‥竹や木を編んだみのを網を引く形に立て,端に簀をあてて魚を捕る漁法。
網代木(あじろぎ)‥網代で打つ杭。
網代人(あじろびと)‥網代に携わる漁師。
網目(あみめ)‥糸,竹などを編んだときにできるすきま。
鳥網(となみ)‥鳥を捕るために張る網。

上の地名に残っているものも結構ありますね。また,呼び方は違いますが今も使っている網の道具もあります。
最初は鳥を飼うために網で囲ったケージのようなものが万葉時代にあったことを示す短歌2首を紹介しました。

霍公鳥夜声なつかし網ささば花は過ぐとも離れずか鳴かむ(17-3917)
ほととぎすよごゑなつかし あみささばはなはすぐとも かれずかなかむ
<<ホトトギスの夜鳴く声が心惹かれる。網の張った保護地に入れれば,季節が過ぎて橘の花が散ってしまってもどっかに行ってしまわず鳴き続けるだろう>>

橘のにほへる園に霍公鳥鳴くと人告ぐ網ささましを(17-3918)
たちばなのにほへるそのに ほととぎすなくとひとつぐ あみささましを
<<橘の花がきれいに咲く園でホトトギスが鳴いていると人に知らせるためにホトトギスを網の張った保護地に入れておこう>>

この短歌は大伴家持が奈良の実家で読んだ6首の内の2首です。
これを読んだ天平16年当時,26歳の家持は政争に巻き込まれそうになったのたのです。「橘」「霍公鳥」は誰のことを指しているかなど興味はありますが,ここは「網さす」にのみ注目します。
「網さす」の「さす」は「花瓶に水を差す」と同じように「網を張ったケージの中にホトトギスを入れる」の「入れる」という意味だと私は思います。
ということは,当時鳥を飼育するための網で囲われたケージのようなものがあったのだろうと想像できます。
漁業で網を使うケースでは今もテレビで見たり,観光イベントで経験できるものがあります。

大宮の内まで聞こゆ網引すと網子ととのふる海人の呼び声(3-238)
おほみやのうちまできこゆ あびきすとあごととのふる あまのよびごゑ
<<宮殿の中まで聞こえる「さあ地引網を引くぞ」と網子の意気を合わせようとする漁師の掛け声が>>

大宮の御殿があるところは難波の宮だと思われます。
この短歌は長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)が文武天皇が難波宮に行幸したとき,招集され詠んだもののようです。
難波の大宮は海の近くにあって,天皇が行幸を歓迎するため,漁師が大勢の人を使って,音頭を取りながら地引網で魚を捕っている様子が詠まれています。
おそらく,おいしい魚がたくさんとれて,今宵の宴は天皇歓迎一色になるでしょうと天皇に詠んだものかと思われます。
魚を捕るために網を引くのはどれだけいっぱい捕れているのだろうか期待が膨らむ瞬間です。
私も中学生のとき,一度だけ若狭湾地引網を引くのを見学したことがあります。参加者は,気持ちを合わせて網を引き,捕れた魚が見え始めたときそれが歓声に変わります。
さて,学校の校庭と外を区切るのはなぜか網状の柵でできいることが結構あります。
学校の帰り,お目当ての異性の生徒が陸上部,テニス部などに入っていて,練習している可憐な姿を網越しにいつまでも眺めていたことはないでしょうか。
そんな気持ちに通ずる短歌が次の詠み人知らずの1首です。

あらたまの寸戸が竹垣網目ゆも妹し見えなば我れ恋ひめやも(11-2530)
あらたまのきへがたけがき あみめゆもいもしみえなば われこひめやも
<<寸戸というところで作った竹垣の網目から中があなたが見えないなら私はこんなにあなたのことを恋慕っていたでしょうか>>

このように万葉時代では,網状のものはさまざまな用途に作られていたことがわかります。
網は英語でネットワークといいますが,私たちは今さまざまなネットワークのもとで暮らしています。
特に良い友達とのつながりを広げ,人的ネットワークを拡大することはさまざまな時に自分を助けてくれることがあります。
そして,そういう人的ネットワークを通して社会貢献を行い,公共団体のセーフティーネットに頼らざるを得ない人を少なくしていければと考えています。
今もあるシリーズ「帯(おび)」に続く。

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