2012年9月8日土曜日

今もあるシリーズ「帯(おび)」


<現代の「帯」>
着物を着る機会が少なくなっている今,若者の含め「帯」といえば浴衣を着るときに巻くのが一番ポピュラーでしょうか?
ただ,服飾系の「帯」そのものではなく「帯状のもの」となると,次のように結構いろいろな言葉として存在しているように思います。
・携帯(けいたい)‥携え持つこと。英語ではmobile(モバイル)。
・帯状疱疹(たいじょうほうしん)‥帯状に赤い発疹と小水疱が出現する皮膚疾患
・地震帯(じしんたい)・火山帯(かざんたい)‥地震や火山噴火が頻発する帯状の地域
・帯域(たいいき)‥電気通信の用語で,周波数の幅のこと。一般にこれが広いほど通信速度性能が高い。
・路側帯(ろそくたい)‥おもに歩行者用に道路端寄りに設けられた帯状の部分。
<万葉時代の「帯」>
万葉集では服飾系の「帯」を詠ったものが多いのは予想がつきますが,次の詠み人知らずの短歌のように「帯状」を詠ったものもすでに出ています。

大君の御笠の山の帯にせる細谷川の音のさやけさ(7-1102)
おほきみのみかさのやまの おびにせるほそたにがはの おとのさやけさ
<<大君が三笠の山の周りを帯のように巡らしている細い谷川の流れる水音がさわやかです>>

また,「携帯する」という意味の「帯びる」も万葉集で詠われています。次は防人の妻が詠ったと考えられる短歌です。

葦辺行く雁の翼を見るごとに君が帯ばしし投矢し思ほゆ(13-3345)
あしへゆく かりのつばさを みるごとにきみがおばしし なげやしおもほゆ
<<葦辺へ飛ぶ雁の翼を見るたびにあなたがいつももっていた投げ矢を思い出します>>

さて,万葉集に出てくる「帯」にはどんなものがあるか見てみましょう。
靫帯ぶ(ゆきおぶ)‥靫(矢を差し込んでおく皮のケース)を持って宮廷を守った者。
白栲の帯(しろたへのおび)‥帯(「白栲の」は枕詞)
倭文機帯(しつはたおび)‥古代の織物の一つ。穀(かじ)・麻などの緯を青・赤などで染め,乱れ模様に織った布で作った帯。
狭織の帯(さおりのおび)‥幅を狭く織った倭文布で作った帯。
韓帯(からおび)‥韓風のきらびやかで豪華な帯。
引き帯(ひきおび)‥衣服の上に用いる小帯。
この中で,倭文機帯を詠んだ詠み人知らずの短歌を紹介しましす。

いにしへの倭文機帯を結び垂れ誰れといふ人も君にはまさじ(11-2628)
いにしへの しつはたおびを むすびたれ たれといふひとも きみにはまさじ
<<あの人もこの人も素敵な倭文機帯を垂らしているけれど,あなた以上に似合う人はいないわよ>>

倭文機帯は,当時都で流行した色の違う糸を使って織った布で作った帯のようです。非常に手の込んだもので,一目で倭文機帯と分かったのではないでしょうか。
今の特定高級ブランドに多くの人が憧れたり,購入したりする社会現象と1300年前の日本の都会もあまり変わりがなかったというかもしれませんね。
今もあるシリーズ「櫛(くし)」に続く。

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