ここまで,万葉集では「凌ぐ」は「覆い隠す」や「踏みつける」という意味で使われることが多いと書いてきました。
ただ,1首だけですが,現代の意味に少し近づいた「乗り越える」という意味で詠まれている長歌の一部を紹介します。
~ 旗すすき 本葉もそよに 秋風の 吹きくる宵に 天の川 白波凌ぎ 落ちたぎつ 早瀬渡りて 若草の 妻を巻かむと 大船の 思ひ頼みて 漕ぎ来らむ その夫の子が ~(10-2089)
<~ はたすすき もとはもそよに あきかぜの ふきくるよひに あまのがは しらなみしのぎ おちたぎつ はやせわたりて わかくさの つまをまかむと おほぶねの おもひたのみて こぎくらむ そのつまのこが ~>
<<~ 旗のように長く伸びたススキの根元の葉をそよと秋風が吹きぬける今宵に,天の川の白波を越え,落ちたぎる早瀬を渡って,妻の手を枕に共寝しようと心に思い,漕いでくるその男が ~>>
何かを「乗り越える」ためには忍耐を要するところから,「凌ぐ」に「耐える」とか「我慢する」といった意味を持たせるような変化が時とともに進んでいったのでしょう。
次回から3回に渡って説明する「侘ぶ(侘びる)」も同様に万葉時代と現代では意味が変化していった動詞だろうと思います。
どんな変わり方をしてきたか,次回以降のブログを楽しみご覧ください。
天の川 「たびとはん。この長歌は『天の川』が3回も出てくる珍しい長歌やで。ちゃんと紹介してえ~な!」
最近の寒さで,布団の中から出てこれない天の川君もやっぱり,ここは言っておきたいようだね。
まあ,今度の7月に万葉集の「天の川特集」(君の特集じゃないよ)をやる予定なので,そのときまで取っておきましょう。
侘ぶ(1)に続く。
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