「侘ぶ」という言葉が出てくる万葉集の巻はかなり偏っています。
多くが巻4と巻12の短歌に出てきているのです。巻4の短歌は作者が誰であるか題詞や左注に書かれていますが,巻12はすべて詠み人知らずの短歌です。
今回は,巻4に「侘ぶ」が出てくる短歌で,それも女性が詠んだと考えられる短歌3首を紹介します。
1首目は大神女郎(おほみわのいらつめ)が大伴家持に贈った短歌です。
さ夜中に友呼ぶ千鳥物思ふと侘びをる時に鳴きつつもとな(4-618)
<さよなかにともよぶちとり ものもふとわびをるときに なきつつもとな>
<<夜中に友を呼ぶチドリが,私があなたのことを思って落ち込んでいる時,しきりに鳴いていて,まあいらいらするわね>>
2首目は志貴皇子の子である湯原王と結構きわどい相聞を繰り返した娘子(をとめ)の短歌の1首です。
絶ゆと言はば侘びしみせむと焼大刀のへつかふことは幸くや我が君(4-641)
<たゆといはば わびしみせむと やきたちのへつかふことは さきくやあがきみ>
<<「もう別れよう」とあなたが言ったら私がしょげかえると思って,本当のことを言わないあなたはそれで幸せなの?>>
最後の1首は大伴田村大嬢(たむらのおほをとめ)が,後に家持の正妻になる異母妹の大伴坂上大嬢(さかのうえのおほをとめ)に贈った短歌です。
遠くあらば侘びてもあらむを里近くありと聞きつつ見ぬがすべなさ(4-757)
<とほくあらばわびてもあらむを さとちかくありとききつつみぬがすべなさ>
<<遠くに住んでいるならば寂しく思うだけですが、住む里が近くにあると聞いていてもあなたと会えないなんて芸の無いことですよね>>
いずれの短歌も「侘ぶ」という自分の気持ちを詠んで,相手に少し皮肉(恨みごと)を伝えようとしているように私には感じられます。
1首目と3首目は返歌がありません。ただ,2首目は湯原王が娘子の気持ちをはぐらかすような次の短歌を返しています。
我妹子に恋ひて乱ればくるべきに懸けて寄せむと我が恋ひそめし(6-642)
<わぎもこに こひてみだれば くるべきに かけてよせむと あがこひそめし>
<<あなたに恋して心が乱れても、乱れた心を糸車に掛けて縒り合わせればよいと思ってあなたを恋し始めたのです>>
なんだか湯原王は返答に困って苦し紛れに返したようにも思えますね。
侘ぶ(3:まとめ)に続く。
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