2011年1月10日月曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…凌ぐ(2)

「凌ぐ」の2回目は「踏みつける」という意味で使われている万葉集の短歌をまず紹介します。

君に恋ひうらぶれ居れば 敷の野の秋萩凌ぎ さを鹿鳴くも(10-2143)
きみにこひ うらぶれをれば しきののの あきはぎしのぎ さをしかなくも
<<あなたを恋しいと思い,切ない気持でいると,敷の野の秋萩を踏みつけて牡鹿が(妻が欲しいと)鳴いているなあ>>

作者(詠み人知らず)は,恋しい気持ちをどう伝えればと悩んでいるとき,可憐な秋萩もお構いなしに踏みつけ,大きな鳴き声で「恋しい恋しい」と鳴き叫ぶことができる牡鹿を羨ましく思っているのでしょうか。
実は,万葉集の中で萩と鹿のセットになっている和歌が23首と割と多く詠まれています。
そのうち3首(上の短歌以外に8-1609と20-4297)が上の短歌のように「秋萩凌ぎ」となっています。可憐な秋萩は牡鹿に踏みつけられる運命にあるというイメージがあったのかも知れません。
まさか,3首ともれっきとした妻(秋萩に例えて)がいるのにそれを踏みつけて(別れて),別の女性を恋しいと叫びたいという気持ちを詠んだ不倫歌ではないと思いますが,どうでしょうか。

ところで,花札をご存知の方は,鹿が紅葉とセットで出てくるのを知っていらっしゃるでしょうか。
この鹿がこちらを見ず横を向いているので,シカトが無視するという意味になったということは広辞苑にものっている話です。
ただ,万葉集では鹿と紅葉をセットで詠んだ和歌はないようです。
一方,萩はイノシシとセットで花札に出てきます。これも同様,万葉集では萩とイノシシのセットにした和歌はありません。

天の川 「たびとはん。花札やったらまかせといてんか。即興で花札短歌創ったで~。
      花合わせ 松桐坊主 猪鹿蝶 手札場札 残りは山札
      桜幕 菊に杯 月坊主 花見で一杯! 月見で一杯!
    どや?」

鹿,イノシシ,紅葉,萩を詠んだ万葉集の和歌を鑑賞するとき,どうやら花札(江戸時代に考案されたらしい)をイメージしない方が良いみたいですね。
凌ぐ(3:まとめ)に続く。

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