年末年始スペシャルで,動きの詞シリーズは少しお休みしていましたが,万葉集に出てくる「凌ぐ」から再開します。
「急場を凌ぐ」「前回を凌ぐ成績を残せた」「凌ぎやすい季節になった」などの表現で,「我慢する」「乗り越える」という意味合いで今も使われている「凌ぐ」は,万葉集ではどのような意味で使われていたのでしょうか。
万葉集では,10首ほど「凌ぐ」を使った和歌が出てきます。次は,その中の1首です。
奥山の菅の葉凌ぎ降る雪の消なば惜しけむ雨な降りそね(3-299)
<おくやまの すがのはしのぎ ふるゆきの けなばをしけむ あめなふりそね>
<<人里離れた山奥のスゲの葉を覆い隠すほど降った雪が,消えてしまうのは心残りだから雨よ降ってくれるな>>
大伴旅人が詠んだとされるこの短歌で「凌ぐ」は「覆い隠す」という意味で使われています。
スゲの葉は,冬枯れ葉色でそれほど綺麗でもないが,その上に雪がたくさん降り積もって,美しく白銀色に染めている状態が続くよう,雨なんか降って雪を溶かしてほしくないという感情を詠んだものと理解できます。
この前後の短歌は羈旅の雑歌ですので,旅人が人里離れた山奥を旅程で通った時,見た風景を詠んだのでしょう。
<中高生のころの話>
そういえば,少し状況は異なるのですが,若いころの私も似たような気持ちになったことがあります。
私は高校卒業後浪人生活を1年送りました。高校生の時,クラブ(ブラスバンド部)活動や地域音楽サークル活動ばかりやっていたため,勉強をまったくといっていいほどしませんでした。
予習や宿題は無視し,定期試験前の一夜漬け以外,自宅で教科書を開いたことはほとんどありませんでした。また,授業中は教師の話はそっちのけで,クラスのクラブメイトに「早く授業時間が終わって,部室に行きたいね」といった合図ばかり送っていたのです。
成績も5段階評価で体育会系クラブではないのに保健体育だけは5,ブラスバンド部なのに何と音楽は3,他の教科は2,英語に至っては1,2学期は1(赤点),3学期留年を防ぐため,お情けで2にしてもらった状況でした。
<浪人時代の受験勉強の話>
大学受験は当然失敗し,浪人(予備校生)生活へ。ただ,高校時代では勉強が嫌いだったのではなく,クラブを優先しただけだと,前向きに気持ちを切り替え,受験勉強に突入しました。
1日13時間以上,勉強の時間割を1時間単位で作成し,予備校の授業を除く時間(平日7時間,休日15時間)は徹底して,受験雑誌などの問題を解くことに専念しました。
さすがに高校時代ほとんど勉強していなかったハンディは大きく,夏休み前まではいくら受けても模擬テストの成績は一向に伸びませんでした。
ただ,夏休み期間中も毎日13~15時間勉強を休まず続けたおかげか,9月の模擬テストで国語(現代国語,古典を合わせたもの)で,予備校で全体で200位以内に入り初めて名前が貼り出されました。勉強で名前が貼り出されるなんてことは今までなかったので,自信が湧いてきたのです。
そこから,模擬テストを重ねるごとに,化学,世界史,物理,数学の順で200位以内入りました。そして11月にはあの高校時代赤点常連だった英語までもが200位以内となり,そのころには総合でも100位以内に入るようになったのです。年が明けると,予備校の総合ランクトップ10にも顔を出すようになりました。
2月上旬最後の追い込みのとき,その日は雪の朝でした。前夜は今までなかなか解けなかった数学の超難問(京大理系の過去問)の正解を出すまで遅くまでかかり,その寝不足解消に冷たい風に当ろうと,めったに行かない予備校の屋上に行きました。
屋上からは京都市周辺の山並みの麓に連なる寺院の甍(いらか)が雪で白く覆われているのが一望できました。今まで黒ずんで見えていたものが本当に美しく浮かび上がって見え,清々しい気持ちになったのです。
ここまでの受験勉強の成果からその朝のように白く美しい結果はある程度予測できそうでしたが,体調不良などのアクシデントで黒ずんだ結果にならないよう願ったのを覚えています。
結局,そしてその願いは叶い,次の短歌の予想のように志望校の受験に落ちることはなく済んだのです。
奥山の真木の葉凌ぎ降る雪の降りは増すとも地に落ちめやも(6-1010)
<おくやまの まきのはしのぎ ふるゆきの ふりはますとも つちにおちめやも>
<<人里離れた山奥のヒノキの葉を覆い隠すように降る雪がさらに降っても,地に落ちることはありましょうか(いや,ありません)>>
凌ぐ(2)に続く。
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