引き続き,「へ」「ほ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
舳(へ)…船の舳先。
綜麻(へそ)…つむいだ糸をつないで、環状に幾重にも巻いたもの。
端,辺(へた)…はし。へり。
秀(ほ)…秀でていること。外に現れ出ること。
霍公鳥(ほととぎす)…ホトトギス
仄か(ほのか)…はっきりと見分けや聞き分けができないさま。かすか。
朴、厚朴(ほほがしは)…ホオの異称。
今回は,朴、厚朴(ほほがしは)を詠んだ短歌を紹介します。
我が背子が捧げて持てる厚朴あたかも似るか青き蓋(19-4204)
<わがせこが ささげてもてる ほほがしは あたかもにるか あをききぬがさ>
<<貴殿が高く捧げてお持ちの朴葉(ほうば)の立派さは,高貴な方が頭にかぶる蓋(きぬがさ)のようですね>>
皇祖の遠御代御代はい重き折り酒飲みきといふぞこの厚朴(19-4205)
<すめろきの とほみよみよは いしきをり きのみきといふぞ このほほがしは>
<<遠い昔の天皇の世では,朴葉を折りたたんでお酒を入れて飲んだということですよ>>
越中国守になって4年以上すぎた家持が氷見へ遊覧した際,参加者の一人(恵行という名の僧侶)が詠んだ短歌が前の1首。そして,大伴家持がそれに返歌したのが後の1首です。
この和歌のやり取りの場面は,家持が遊覧先の宴席で参加者が料理を取るための皿の代わりに立派な朴葉(ほうば)を用意したのがきっかけだと私は思います。
家持自らが朴葉の重ねたものを捧げ持ってきたのを見た参加者の一人が,その立派さを驚きとともに讃えたところ,家持は朴葉の由来を返歌したのでしょう。
今でも,朴葉はその肉厚で丈夫な大きな葉を利用して料理(ほうば焼き,ほうば寿司など)に使われます。万葉時代のさらに昔から,朴葉は,外出した際持ち運びが軽く,使用後は捨てられる便利さから,皿・コップ・炭火焼きの鉄板の代わりとして利用されてきたようです。
恐らく,家持は家臣に今まで見たこともないような上質の朴葉を用意させていたのでしょう。
「折りたためばお酒のコップにも使える」と返歌した家持は,同行者に日頃の国を守るための協力に対し「この立派な朴葉を使って飲んでもよいほどたくさんお酒も持ってきましたから,今日は大いに飲んでほしい」という意味を込めて返歌したのだろうと思います。
家持は翌年には5年に渡る越中赴任を終わり都に戻ります。
家持が赴任終了が近付いていることを知っていたかどうか分かりませんが,この日の和歌がこの他に数首万葉集に残っていますから,かなり盛大な遊覧旅だったのかもしれませんね。
(「ま」で始まる難読漢字に続く)
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