引き続き,「ま」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
目(ま)…「目のあたりにする」という用法は現在でも使う。
籬(まがき)…竹・柴などを粗く編んで作った垣。ませ。ませがき。
粉ひ,擬ひ(まがひ)…入り乱れること。混ざって区別しにくいこと。
罷る(まかる)…退き去る。都から地方へ行く。
纏き寝(まきね)…互いの手を枕にして寝る。共寝。
任く(まく)…まかせる。ゆだねる。委任する。任命する。
設く(まく)…あらかじめ用意する。心構えをしてその時期を待つ。時が移ってその時期になる。
座す、坐す、在す(ます)…いらっしゃる。おいでになる。なさる。
大夫(ますらを)…剛勇な男。
馬塞、馬柵(ませ)…馬が出られないようにした垣
纏はる(まつはる)…絶えずくっついていて離れない。つきまとう。
奉る(まつる)…差し上げる。たてまつる。申し上げる。
服ふ(まつろふ)…服従する。服従させる。
眼間,目交(まなかひ)…目と目との間。目の前。目の当たり。
愛子(まなご)…いとしご。
随に(まにまに)…成行きに任せて。
多し、数多し(まねし)…度重なる。しげし。多い。
幣、賄(まひ)…礼物として奉る物。幣物。贈物。
卿大夫(まへつきみ)…天皇の御前に伺候する人の敬称。朝廷に仕える高臣の総称。
崖(まま)…がけ。
檀(まゆみ)…ニシキギ科の赤い実を付ける落葉樹木。弓を作ったためこの名がついた。
今回は,この中で卿大夫(まへつきみ)がでてくる短歌を紹介します。
島山に照れる橘うずに刺し 仕へまつるは卿大夫たち(19-4276)
<しまやまに てれるたちばな うずにさし つかへまつるは まへつきみたち>
<<庭の山に輝く橘の実を髪飾りに挿してお仕えするのは、天皇の御前に伺候する人たちです>>
この短歌は,藤原八束が天平勝宝4年(752年)11月25日の新嘗祭の宮中宴会で参加者6人がそれぞれ1首ずつ詠んだ歌の一つです。
この6人とは,巨勢奈弖麻呂,石川年足,文屋真人,藤原八束,藤原永手,そして34歳の少納言であった大伴家持でした。
この宴会は,父聖武天皇が女帝孝謙天皇に天平勝宝元年(749年)に譲位した後,孝謙天皇の縁戚で急速に勢力を伸ばした藤原仲麻呂が,それまで聖武天皇とともに平城政治を中心的に担ってきた橘諸兄(葛城王)を脅かす存在になってきた時期です。
この6人は恐らく藤原仲麻呂の勢力拡大を当時面白く思っていなかった人たちだったろうと私は思います。
この短歌に出てくる「橘」は橘諸兄を指し「天皇に仕える高官たちほとんどは橘諸兄派なのですよ」という孝謙天皇に対するメッセージではないかと私は考えます。
非常に政治的に生臭い短歌だと思えますが,逆に万葉集に出てくる和歌のスコープの広さを感じさせてくれるような短歌です。
この後,聖武天皇(756年),橘諸兄(757年)が相次いで亡くなり,光仁天皇が即位(770年)するまで後見人を失った大伴家持は地方に飛ばされ政争の渦の中で苦労をしていくのです。
(「み」で始まる難読漢字に続く)
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