引き続き,「ひ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)。
醤酢(ひしほす)…ひしお(味噌・醤油の原型)と酢。ひしおに酢を加えたもの。
聖(ひじり)…太陽のように天下を知る人。天皇。清酒の異称。
直土(ひたつち)…地べた。
漬つ(ひつ)…水に漬かる。濡れる。ひたす。
純裏(ひつら)…衣服の表と裏が同じ色のこと。
人嬲(ひとなぶり)…人をいじめること。
鄙(ひな)…都を離れた土地。田舎。
雲雀(ひばり)…ヒバリ(鳥)。
褨襁(ひむつぎ)…幼児の肌をくるむ着物。
蒜(ひる)…ねぎ,にんにく,のびるなどの総称。
嚔る(ひる)…くしゃみをする。はなひる。
領巾(ひれ)…首にかけ、左右に長く垂らした女性用の服飾具。別れを惜しむ時に振った。
今回は,醤酢(ひしほす)と蒜(ひる)が出てくる短歌を紹介します。
作者は今までこのブログでも何度か登場している万葉集の「綾小路きみまろ」こと長忌寸意吉麻呂(ながの いみき おきまろ)です。
宴席でもとめられた物名歌(いくつかのモノを詠み込み即興で和歌にしたもの)です。
宴席では意吉麻呂のユーモアのある即興歌を創る能力に定評があると分かっているのか,何と食材など「酢」、「醤」、「蒜」、「鯛」、「水葱(なぎ)」の5語も詠み込んで面白い和歌を詠めということになったようです。
醤酢に 蒜搗きかてて 鯛願ふ 我れにな見えそ 水葱の羹(16-3829)
<ひしほすに ひるつきかてて たひねがふ われになみえそ なぎのあつもの>
<<醤に酢を入れ,ニンニクを潰して和えた鯛の膾(なます)を食べたいと願っている私に,頼むからミズアオイの葉っぱしか入っていない熱い吸い物を見せないでくれよ>>
宴席で吸い物が出るのはもうお開きという意味だったと私は想像します。
まだ呑み足らない意吉麻呂は「なんだ酒の肴として期待していた鯛の膾は出ないのかよ。お開きのサインなんて見たくもない」という気持ちを詠ったのだと思いますね。
それにしても,酢醤油にニンニクを潰して入れたタレで作った鯛の膾は,ニンニクが生の鯛の臭みを取り,酢が殺菌をして,醤が鯛のうま味を引き立てる,本当に美味そうですよね。今度妻がいない時に作ってみよう。
一方,ミズアオイの葉は分厚く,細かく切り十分煮て,吸い物にしても結構にがかったのだと思います。後に食べなくなったことを考えると,当時他によい具がなくて仕方なく食べた。ただ,にがみ成分が胃腸には良かったのかも知れませんね。
私は,この短歌は食べたかった料理の美味しさと宴席の雰囲気を見事にイメージさせる素晴らしい即興歌だと思います。
最後に私のパロディ1首。
海苔干物 玉子を溶きて 飯願ふ 我れにな見えそ 古トースター
(「ふ」で始まる難読漢字に続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿