引き続き,「は」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
将や(はたや)…もしや。あるいは。ひょっとして。
徴る(はたる)…徴収する。取り立てる。駆りだす。
埴生(はにふ)…粘土のある土地。
唐棣(はずね)…庭梅、庭桜の古名か。
柞(ははそ)…小楢(こなら)、橡(くぬぎ)、大楢(おおなら)の総称。
祝(はふり)…神に仕えるのを職とする者。
葬り(はぶり)…ほうむること。
隼人(はやひと)…九州南部の風俗習慣を大和朝廷とは異にしていた人々。後に従属。
駅馬(はゆま)…律令制で駅に用意し、管用に供した馬。
墾る(はる)…新たに土地を切り開く。
今回は,駅馬(はゆま)が出現する短歌の一つを紹介します。この短歌は大伴家持が越中赴任時,家持の部下が遊女(うかれめ)との度が過ぎた浮気をその部下に諭す長歌,短歌3首の二日後に詠んだものです。
左夫流子が斎きし殿に 鈴懸けぬ駅馬下れり 里もとどろに(18-4110)
<さぶるこが いつきしとのに すずかけぬ はゆまくだれり さともとどろに>
<<遊女左夫流子を本妻のようにして住まわせているお前の家に鈴を懸けない(私用の)駅馬が都から走ってきた。ひずめの音が里中に響き渡る勢いで>>
この駅馬に乗って都からはるばる越中まで飛んできたのは,もちろん都に残してきた部下の本妻です。
この前に長歌,短歌3首では,もう浮気というより左夫流子を本妻のように振舞わせていることが詠まれているくらいですから(家持はその4首で許されないことだよと諭しています),それを聞きつけた都にいる本妻の怒りの度合がいかばかりか「里もとどろに」でよく分かりますよね。
そして,越中の夫の家に着いた本妻は,戸を勢いよく開け,夫や左夫流子にどういう口調でどう言ったのかは,現代のわれわれにも容易に想像できそうです。
「そら見ろ。言わんこっちゃない」という上司家持の気持ちがこの短歌からにじみ出ています。
ただ,この前の長歌と短歌3首(浮気を諭す内容)から二日後にこの短歌を詠んでいるのは少しストーリができすぎている感も否めませんね。
部下側の和歌も残っていないことを考えると部下たちへの規律教育的見地から作ったフィクションまたは事実としても多少誇張した創作の可能性もありそうです。
天の川「ところで,たびとはんもきっとそんなえらい(大変な)目に今まで何度もおうたことあるんやろ?」
こういう話になるときまって出てくるのが天の川のやつ。無視,無視。(「ひ」で始まる難読漢字に続く)
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