先週は通勤時間帯の交通機関乗客数も非常に少なく,通勤がすごく楽でした。
さて,動きの詞シリーズを再開します。今回からしばらくは「降る」について,万葉集を見ていきしょう。
「降る」は「○○が降る」というように「降る」対象があります。
ポピュラーなものとしては,雨,雪あたりでしょうか。
その他のモノとして,霜,霰,露,神(降臨)といったところでしょうか。
まずは普通の「雨が降る」を見ていきます。
実は雨にもいろいろ種類があります。
万葉集で出くる「降る」雨には,単なる雨の他,春雨,小雨,村雨(しきりに強く降る雨),時雨(しぐれ),長雨,夕立の雨などがあります。
今回は,万葉集で多く詠まれている(単に)雨が降る情景について,何首か見ていくことにします。
旅の途中に雨に降られるといやなものですね。天候が良ければ心も軽やかに旅路も進みますが,雨だと我慢の連続となりますね。
最初は,そんな旅先(紀州の新宮あたり?)の憂鬱な気持ちを詠んだ長意吉麻呂(ながのおきまろ)の短歌です。
苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに(3-265)
<くるしくもふりくるあめか みわのさきさののわたりに いへもあらなくに>
<<苦しい旅路に輪をかけて降って来る雨だよ。三輪の崎の狭野のあたりに雨宿りする家なんかあるわけないのに>>
昔の僻地を通る旅は大変だったのが窺い知れます。
次は,雨の降る日,家にじっとしていると恋人のことばかり考えてしまう気持ちを詠んだ詠み人知らずの短歌です。
韓衣君にうち着せ見まく欲り恋ひぞ暮らしし雨の降る日を(11-2682)
<からころもきみにうちきせ みまくほりこひぞくらしし あめのふるひを>
<<韓衣を着た姿をあなたに見せてあげたたいと恋しい気持ちでおります。この雨の降る日を>>
いろいろな解釈ができる1首ですが,女性が夫が恋人が来るのをきれいな着物に着替えて待っているが,雨なので来てもらえそうにない残念な気持ちを詠んだのではないかと私は解釈しました。
最後は,「雨ニモ負ケズ」ではないけれど,雨が降るような障害となることがあってもあなたへの気持ちは変わらないと詠んだ情熱的な短歌です。
紅に染めてし衣雨降りてにほひはすともうつろはめやも(16-3877)
<くれなゐにそめてしころも あめふりてにほひはすとも うつろはめやも>
<<紅色に染めた衣,雨が降って濡れてしまっても,紅色が一層鮮やかになり,紅色がぼやけてしまうようなことはないですよ>>
この短歌は,九州の豊後國(今の大分県あたり)の白水郎と呼ばれた人物が詠んだとされています。
衣は自分の気持ち,紅色は相手に対する気持ち,雨が降ることは周囲の反対や環境上の障害でしょうか。
一途な恋をしているときはどんな反対を受けても,恋の気持ちはより強くなることはあっても弱くなることはないという気持ちになるのでしょうね。
ただ,人の心は実は「うつろはめやも」とは反対に「うつろいやすい」ことも事実。熱くなり過ぎず冷静な気持ちで相手をしっかりする恋愛も重要だとこの短歌は教えているのかもしれません。
動きの詞(ことば)シリーズ…降る(2)に続く。
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