2012年6月23日土曜日

対語シリーズ「解くと結ふ」‥紐は解いて待つ?いや,解いてもらうため結んで待つ?


旧暦の七夕(今の8月立秋あたり)は妻問いにちょうど良い季節だったのでしょうか?
梅雨が明け晴れた日が多く,空気も澄んでくる。昼間はまだ暑いが,立秋も過ぎ夜になると少し風が涼しく感じられるようになる。うるさい蛙(かはづ)の声がおさまり,どこからともなくロマンチックな秋の虫の声が聞こえてくる。
今のように,高いビル,アスファルトの道,貧弱な街路樹などによるヒートアイランド現象が無かった万葉時代は,旧暦七夕の時期の夜になると男女が身を寄せ合うのにもっとも適した季節だったのではないかと私は想像します。
さて,妻問いで夫の来訪を待つ妻は下衣の紐を解いて待つか,夫に解いてもらうために紐は軽く結んでおくか?どちらが夫に喜んでもらえるか。それが大問題です。
まずは,万葉集に出てくる紐を解いて待つ派の女性(詠み人知らず)の短歌です。

天の川川門に立ちて我が恋ひし君来ますなり紐解き待たむ(10-2048)
あまのがはかはとにたちて あがこひしきみきますなり ひもときまたむ
<<天の川の渡し場に行っては,私が恋い慕っていたあなたがいらっしゃるらしい。衣の紐を解いてお待ちしよう>>

次は,七夕を詠ったものではありませんが,紐を夫に解いてもらう派の詠み人知らず(東歌)の短歌です。

昼解けば解けなへ紐の我が背なに相寄るとかも夜解けやすけ(14-3483)
ひるとけばとけなへひもの わがせなにあひよるとかも よるとけやすけ
<<昼間は解ことしても解けない紐が,あなたと寄添う夜は何と解けやすいこと>>

紐を解いたのは本人か夫か分かりませんが,少なくとも相寄るまでは紐は結んで待っていると想像できます。
ところで,男の方はどうでしょうか。牽牛星織姫星の逢瀬を題材にお互いが衣の紐を解きあいたいと詠った次の詠み人知らずの短歌があります。

高麗錦紐解きかはし天人の妻問ふ宵ぞ我れも偲はむ(10-2090)
こまにしきひもときかはし あめひとのつまどふよひぞ われもしのはむ
<<高麗錦の紐を互いに解きあって彦星が妻問いをする今宵。私もそうして見よう>>

この3首から,共寝では男心としては着ているものを脱がせるプロセスが楽しみ(ワクワクする)。通常の女心は準備OKの印として着ているものを脱いでおきたい。ただし,そんな男心を知っている女性は相手に脱がせるため,わざと着ておく(紐を結んでおく),といったことが分かりますね。

天の川 「なんや。今も昔もちっとも変わらへんな。たびとはんは女性の背中のホックを外すが下手やったやんか。」

あのね,天の川君。頼むから誤解を招くようなことを言わないようにしてくれ。とんでもない天の川の奴に乱されましたがまとめます。
紐を解くの「解」は「解析学」「数値解析」の「解」です。
解析学や数値解析を研究している人には,もともと圧倒的に男性が多いとしたら,「紐を解く」を男性が好きだということとまさか関係があるなんてことはないですよね。
対語シリーズ「天と地」に続く。

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