2012年6月8日金曜日

対語シリーズ「手と足」‥七夕の織姫は手足をリズミカルに動かせた?


「手」と「足」が本当の意味で対語であるか微妙かも知れませんが,万葉集の多くの和歌で「手」と「足」が出てきます。
特に「手」は次のような多くの熟語になり,詠み込まれています。

麻手(あさで)‥麻で織った布
伊豆手船(いづてふね)‥伊豆で造船された船
大御手(おほみて)‥天皇の手
水手(かこ)‥舟を漕ぐ人。水夫
蛙手(かへるて)‥カエデ
衣手(ころもで)‥袖
手柄(たかみ)‥剣のつか
直手(ただて)‥自分の手(自分だけ)で行うこと。
手玉(ただま)‥手に付ける玉
手力(たぢから)‥腕力
手束(たつか)‥手に握り持つこと
手作り(たづくり)‥手で織った布
手馴れ(たなれ)‥扱いに慣れていること
手挟む(たばさむ)‥手で挟む
手火(たひ)‥手に持って道などを照らすたいまつ
手巻(たまき)‥ひじに纏った輪形の装飾品
手枕(たまくら)‥腕を枕とすること
手向け(たむけ)‥神や死者の霊に物を供えること
手本(たもと)‥ひじから肩までの間
手弱し(たよわし)‥か弱い
手弱女(たわやめ)‥たわやかな女性
手童(たわらは)‥幼い子供
手折る(たをる)‥手で折る
柧手(つまで)‥荒削りした木材
手臼(てうす)‥手で杵を持って穀物を挽く臼
手染め(てそめ)‥手で染めたもの
手斧(てをの)‥ちょうな
長手(ながて)‥遠い道
最手(ほつて)‥優れた技
井手(ゐで)‥田の用水を塞き止めているところ

いっぽう,「足」は次のような熟語として使われています(「足る」の用例は除く)。

足占(あうら)‥足を使った占い
足掻き(あがき)‥馬などが前足で掻いて進むこと
足飾り(あしかざり)‥足に付ける飾り
足玉(あしだま)‥足に付ける玉
足早(あしはや)‥速力が速いこと
足痛く(あしひく)‥足に病がある
足悩む(あしゆむ)‥足が痛む。難儀しながら歩く
足速や(あばや)‥足が速いこと
足結(あゆひ)‥動きやすいように袴を膝頭で結んだ紐。

では,まず「手」と「足」が両方詠み込まれていて,七夕を題材にした詠み人知らずの短歌を紹介します。

足玉も手玉もゆらに織る服を君が御衣に縫ひもあへむかも(10-2065)
あしだまも ただまもゆらに おるはたを きみがみけしに ぬひもあへむかも
<<手足につけた飾り玉が触れ合って奏でる音を聞きつつ織る布は,七夕の夜貴方に着ていただくための御衣用なの。お気に入りの形に縫えるよう織れるかしら>>

ところで,後1カ月足らずで七夕がやってきますね。
この歌は織姫の気持ちを詠んだ短歌です。機織(はたおり)は手と足を使いながら行います。足は経糸(たていと)を交互に上と下に分ける踏み台を踏む作業をします。手は舟形をした杼(ひ)と呼ばれる道具を横に走らせ,緯糸(よこいと)を通す作業を行います。
これをタイミング良く繰り返すと,きっと手と足に付けたアクセサリーに付いている玉が触れ合って規則正しい音を立てていたのかも知れませんね。
この音が途絶えることが無いほど頑張って機織をしているけれど,たくましい牽牛に似合いの大きさに織れるか心配している織姫の気持ちをこの作者は表現したかったのでしょうか。
さて,次は同じく七夕と手を詠んだこれも詠み人知らずの短歌を紹介します。

年にありて今か巻くらむぬばたまの夜霧隠れる遠妻の手を(10-2035)
としにありて いまかまくらむ ぬばたまの よぎりこもれる とほづまのてを
<<年に一度,今こそ抱き合おう。夜霧の衣に包まれた彼方の妻の手によって>>

年に一度の逢瀬,天の川対岸の織姫の手で抱かれたい。そんな男の願望が私には伝わってきます。
残念ですが,七夕と身体の足を詠ん和歌は万葉集にはありません(「足る」という意味では出てきます)。しかし,天平感宝元(749)年7月7日越中にて「立つ(足で)」を詠んだ大伴家持の短歌はあります。

安の河こ向ひ立ちて年の恋日長き子らが妻どひの夜ぞ(18-4127)
やすのかは こむかひたちて としのこひ けながきこらが つまどひのよぞ
<<天の川を挟んで向かい立ち,一年に一度の恋に首を長くして待っていた恋人たちが,今夜は共寝をする夜だ>>

今回,万葉集で多く詠まれている手と足について,七夕の切り口で見てみました。万葉時代,七夕では若い男女の手や足が活発に動いたのでしょうね。おっと,勘違いしないでくださいね。文(ふみ)や和歌を書いたり,恋人や妻の家まで歩いたり,恋人や夫を迎える準備をしたりすることですよ。
対語シリーズ「淀と瀬」に続く。

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