2018年1月27日土曜日

続難読漢字シリーズ(6)… 燕子花(かきつはた)

今回は,燕子花(かきつはた)をとりあげます。もちろん,現代用語では燕子花は「かきつばた」と書かないと正解にはならないと思います。
燕子花は,5~6月に咲く,アヤメ科の植物で,アヤメ,花菖蒲と見分けがつきにくいほどよく似ています。万葉時代は,その区別が完全になされていたは不明です。
後で紹介しますが,万葉時代には「かきつはた」と「かきつばた」と両方の発音をすることがあったようですが,伊勢物語の第九段では「かきつばた」となっていることから平安時代初期には濁音が主流になっていたのでしょうか。
では,燕子花を詠んだ万葉集の短歌を紹介していきます。なお,万葉集の漢字かな交じり文にはひらがなで「かきつはた」と書いているものが多いようですが,敢て「燕子花」と漢字にしています。
最初は,美しいカキツバタの花を夢に見るという詠み人しらず(作者未詳)の短歌です。

常ならぬ人国山の秋津野の燕子花をし夢に見しかも(7-1345)
<つねならぬひとくにやまの あきづののかきつはたをしいめにみしかも>
<<滅多に見ることができない人国山の秋津野に咲くカキツバタを夢にまで見たことよ>>

次は,カキツバタのような可愛い女性を詠んだ,これも詠み人しらずの短歌です。

燕子花丹つらふ君をいささめに思ひ出でつつ嘆きつるかも(11-2521)
<かきつはたにつらふきみをいささめに おもひいでつつなげきつるかも>
<<カキツバタのように愛らしく,頬をほんのり赤く染める君をふと思い出してはため息をつく>>

最後は,大伴家持が天平16年4月(新暦では花の咲くころ)にカキツバタを詠んだ短歌を紹介します。

燕子花衣に摺り付け大夫の着襲ひ猟する月は来にけり(17-3921)
<かきつばたきぬにすりつけますらをのきそひかりするつきはきにけり>
<<カキツバタを衣に摺り付けて,大夫が着重ねをして狩りをする時期になったなあ>>

ここでは「かきつばた」と濁音の「ば」で発音しています。
大伴家持は濁音で発音するのが好きだったのか,歌人の中では流行っていたのかわかりません。この短歌がきっかけで「かきつはた」から「かきつばた」に変わったということは,まさかないと思いますが。
(続難読漢字シリーズ(7)につづく)

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