2017年4月1日土曜日

序詞再発見シリーズ(11) ‥ 和歌山県の県名は和歌の浦から?

万葉集の巻11,巻12の序詞で地名がで来る短歌の紹介を続けます。
今回は今の和歌山県の地名を序詞に入れて詠んだ短歌です。
和歌山の県名には「和歌」がついています。もっと,日本の「和歌」について詳しい県というイメージ作りを地道に醸成していけば,県の活性化につながるような気がします。

紀の浦の名高の浦に寄する波音高きかも逢はぬ子ゆゑに(11-2730)
きのうらのなたかのうらに よするなみおとだかきかも あはぬこゆゑに
<<紀の海にある名高の浦に寄せる波音のように周りがうるさい。あの子とは逢ってもいないのに>>

名高の浦」は,今の和歌浦湾の奥あたりのようです。
和歌浦湾はそんなに奥まった湾ではないので,寄せる波は弱いものではなかったというのが,当時のイメージだったのでしょう。
この短歌の作者は,「名高」で周りに知れ渡ってしまっていること,「寄する波音」で噂が広まってしまっていることを表そうとしているように感じます。
まるで,今のワイドショーで取り上げられるタレントの密会や不倫の報道が止まらない状況と似ているのかも知れません。
そして本人曰く「会ったこともございません」といえば,さらに疑惑が広がるといった状況ですね。
ただ,「名高の浦」は当時の平城京の京人にとっては,それこそ有名な場所だったのでしょうね。
もう一つ「名高の浦」を序詞に使った短歌を紹介します。

紫の名高の浦の靡き藻の心は妹に寄りにしものを(11-2780)
むらさきのなたかのうらの なびきものこころはいもに よりにしものを>
<<紫色の名高の海で靡いている藻のように,僕の心はあなたに靡いてしまっています>>

紫色の海藻といえば,海藻サラダに使われる「トサカノリ」がありますが,実際はどんな海藻を指していたのかわかりません。
でも,この短歌で当時の和歌浦湾内の海岸には,温暖な黒潮が紀伊水道に入り込み,色とりどりの多くの海藻が所狭しと生え,波に揺れている姿が想像できます。
今回の最後は,和歌の浦を序詞に詠んだ短歌です。

衣手の真若の浦の真砂地間なく時なし我が恋ふらくは(12-3168)
ころもでのまわかのうらのまなごつち まなくときなしあがこふらくは
<<袖に隙間がある「ま」と同じ音の真(本当の)若の浦の真砂子の海岸が間なく(ずっと)続くように間なく続くわが恋の苦しさは>>

枕詞も訳を省略せず訳してみました。「ま」がポイントだと分かっていただけましたでしょうか。
この短歌を文学的にどう評価するかは私にとって興味がなく,当時の和歌の浦は白い細かい砂浜が続いていたということをみんなが知っていたことを序詞から想像できる事実のほうが私にとっては興味を持てることです。
(序詞再発見シリーズ(12)に続く)

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