万葉時代から酒がよく飲まれていたことが万葉集からもわかります。
大の酒好きの大伴旅人は,讃酒歌(酒を讃むる歌)13首を詠んでいます。その中の2首を紹介します。
いにしへの七の賢しき人たちも欲りせしものは酒にしあるらし(3-340)
<いにしへのななのさかしき ひとたちもほりせしものは さけにしあるらし>
<<その昔、竹林の七賢人が欲しがったのは,この酒であったらしい>>
価なき宝といふとも一杯の濁れる酒にあにまさめやも(3-345)
<あたひなきたからといふとも ひとつきのにごれるさけに あにまさめやも>
<<値段が付けられないほどの価値がある宝といっても一杯の白濁した酒に勝てはしない>>
当時,酒は今の日本酒のように透明ではなく,朝鮮の伝統酒マッコリに近い色と味だったのかもしれませんね。私はどちらかというとウィスキーや焼酎といった蒸留酒の方が好きで,マッコリはあまり飲みません。でも,韓流ブームに乗っている人は好きな人も多いようですね。
ただ,万葉時代には,すでに酒におぼれて,健康を害したり,他人に迷惑をかける人が多く出たのか,禁酒令が出されることもあったようです(続日本記に記録があるとのこと)。
官にも許したまへり今夜のみ飲まむ酒かも散りこすなゆめ(8-1675)
<つかさにもゆるしたまへり こよひのみのまむさけかも ちりこすなゆめ>
<<お上からも許しが出た。今夜だけ飲む酒にならないよう,梅よ散らないでほしい>>
この短歌の作者は,名前はわかりませんが坂上郎女(さかのうへのいらつめ)たちと一緒に梅見の宴に参加して,詠んだようです。おそらく,梅が咲いている間だけは,禁酒令が解除されたのでしょう。何日も飲みたいから梅にすぐ散らないでほしいと詠っているのです。
最後に,黒酒,白酒が出てくる短歌を紹介します。
天地と久しきまでに万代に仕へまつらむ黒酒白酒を(19-4275)
<あめつちとひさしきまでに よろづよにつかへまつらむ くろきしろきを>
<<天地とともに幾久しく万代までもお仕えいたしましょう。黒酒・白酒をお供えして>>
この短歌は天平勝宝4(752)年11月25日に行われた新嘗祭の宴の席上,文屋真人(ふみやのまひと)という高級官僚が詠んだものです。白酒は濁り酒で黒酒は透明な酒なのかもしれません。今で言えば,赤ワインと白ワインといったところでしょうか。
いずれにしても,酒は今も昔も多くの人が愛したものだったことは間違いなさそうですね。
次回はその酒を入れて飲む,杯を万葉集で見ていくことにしましょう。
今もあるシリーズ「杯(さかづき)」に続く。
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