明日香村の農園でみかん一本木のオーナーになり,この前の日曜日みかん狩りをしたと前回の投稿で書きましたが,予想以上に豊作で,みかんの実を収穫するのに妻と二人で1時間半もかかってしまいました。写真は,収穫したみかんの量です。すごいでしょう。
天の川 「たびとはん。そんなにみかんが取れたやったら,みかん酒をぎょうさん作ってや。頼んまっせ!」
すぐ酒を欲しがるのを何とかしてほしいね,天の川君。本当は,みかんをそのままたくさん食べて風邪をひかないようにしてほしいんだけどね。
さて,万葉集では「みかん」という言葉は出てきませんが,柑橘類の橘の和名「たちばな」が多くの歌で出てきます。今では,橘は人名や地名で出てくる程度でしょうか。みかん(蜜柑)は甘(柑)い橘ということ意味の柑橘類の代表格ということになります。逆に橘は甘くないということになります。
<橘は食用にされていた?>
橘が甘くない(酸味が強い)といっても程度はいろいろあり,食べられていた時期もあったかもしれません。人が好む甘さは時代や流行(はやり)によって変化しますからね。
私が幼いころ夏みかんは酸っぱくて,砂糖を大量に使ってマーマレードかジャムにするくらいでした。今,甘夏みかんとは呼ばない原種の酸味が非常に強い夏みかんをそのまま食べる人がいます。糖分の摂取を抑えたビタミンC補給源として。
甘いものが今よりも少なかった万葉時代は橘は常緑の葉,白い可憐な花,緑の美しい果実,そして甘くはないが,健康に良さそうな果実を食べる,果実のしぼり汁を飲んだり,魚などの臭みを消したり,風味を増したりしたのではないかと私は思います。万葉人の愛した橘は万葉集の多くの和歌で詠まれています。
橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木(6-1009)
<たちばなはみさへはなさへそのはさへ えにしもふれどいやとこはのき>
<<橘は実も花もその葉も枝に霜が降ることがあっても,ますます栄える常緑の木である>>
この短歌は聖武(しやうむ)天皇が天平8(736)年11月,葛城王(かづらきのおほきみ)に橘姓を授ける際に詠んだとされるものです。葛城王は橘姓を賜って,自分の名前を橘諸兄(たちばなのもろえ)としたのです。説明など要らないほど明快な短歌で,これで橘がどんな植物かが分かります。寒さに負けず,いつも力強く繁茂している姿が目に見えるようです。
そして,この聖武天皇の短歌を意識して,越中赴任中の大伴家持が天平感宝元(749)年閏(うるふ)5月23日橘諸兄に贈ったと思われる次の短歌(長歌の反歌)があります。
橘は花にも実にも見つれどもいや時じくになほし見が欲し(18-4112)
<たちばなははなにもみにも みつれどもいやときじくに なほしみがほし>
<<橘は花が咲く時も実が成る時も見ていますが,時を分たず見れば見るほどもっと見ていたい気になります>>
「橘諸兄様のさまざまなご活躍に対していつも注目しております。そのお姿を見れば見るほどさらに注目したいと感じるのです」といったことを家持は伝えたかったのでしょうね。
そのほか万葉集で詠まれている多くの橘の歌を見ると,5月(今の6月)に花が咲き,その後直ぐに小さな緑の実を付け,それを取って,穴を開け,細い紐を通して,女の子が首飾りにするような風習や流行があったことが伺えます。アクセサリーとしても可愛いし,いい匂いがしたのでしょうね。
では,今みかんのように,黄色になった橘は万葉人にとって関心がなかったかというと,色づいた橘の実を意識させる短歌がありました。
月待ちて家には行かむ我が插せる赤ら橘影に見えつつ(18-4060)
<つきまちていへにはゆかむ わがさせるあからたちばな かげにみえつつ>
<<月の出を待って家に帰ることにします。私が頭に挿している色づいた橘の実を月影に照らして>>
この短歌は,橘諸兄宅で聖武天皇に天皇の座を譲った元正(げんしやう)上皇,粟田女王(あはたのおほきみ),田辺福麻呂(たなべのさきまろ)等が集まって,宴席をした際に粟田女王が詠んだとされるものです。恐らく,聖武天皇が難波宮(なにはのみや)に都を遷した天平15(744)年頃,この宴席は持たれたのだと思います。
聖武天皇が東大寺の大仏を建立や繰り返し遷都を行い,多額の財政支出を行っていたことに対し,民衆の反発が心配されていたころです。元正上皇は,聖武天皇の補佐役であった橘諸兄を訪ねて「よろしく頼む」という意味の宴会だったのかもしれません。
そうなると,この粟田女王の短歌も意味深ですね。「聖武天皇を抑えられるのは貴殿(橘諸兄)だけ。うまくいったら橘氏を厚遇するしかないでしょう」といった意味にもとらえられるかも?ですね。
ところで,今の世の中も政治が安定していません。安定させることができる人物,政党が現れることへの期待がますます大きくなっているのではないでしょうか。
政治の安定が期待できるのは,政治家として野心がギラギラした人物ばかりの集まりではなく,今まで地道に庶民のため愚直に実績を積み重ねてきた政党ということになるだろうと私は思います。
来月16日には国政選挙(衆議院選挙)が行われます。今までの実績を冷静に評価して投票されることを期待しています。
次回は天の川君が好きな「酒」をテーマに万葉集を見ていきましょう。
今もあるシリーズ「酒(さけ)」に続く。
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