<浮気>
女性にとって,最愛の恋人が浮気をすると当然平常心ではいられません。
浮気相手の女性に対し「○○君は私のモノよ!」「この泥棒猫女!○○君には近づかないで!」と攻撃したり,恋人には「私とあの女とどっちが好きなの?!」と問い詰めます。
男の方が曖昧な返事をしようものなら「あの女と付き合うなら,絶対許さないからね!」と相手の浮気を徹底糾弾し,「二度と浮気はしません」と相手が誓うまで許しません。
しかし,相手が改心する気持ちが完全でないと見るや,急速に恋心は冷え,簡単に別の男に鞍替えをすることも女性はいといません。
未練がましいのは男の方で,どちらかというと切り替えの早いのは女性の方です。
天の川 「たびとはん。えらい詳し~なあ。経験豊富なんと違ゃうか?」
いえいえ。天の川君がいつも言っているように私はそんな甲斐性はありません。万葉集から得た想像で書いてるだけだよ。
では,そんな和歌を何首か紹介しましょうかね。まず,詠み人知らずの次の短歌です。
愛しと思へりけらしな忘れと結びし紐の解くらく思へば(11-2558)
<うつくしとおもへりけらし なわすれとむすびしひもの とくらくおもへば>
<<あの時はいとおしいと思ってくださったのね。忘れないでと誓って結んだ紐が自然に解けたのはまだ貴方様がいとおしく思っているとの報せでしょうか>>
万葉時代,女性は外に出歩くことはままならず,まして恋敵に怒鳴りこむことはそう簡単にできなかったと思います。
また,財力がある場合は,男性が複数の妻を持つことが許されていた時代ですから,女性は強く主張をできずに,相手の男性に気づかせる方法しか取れなかったのだと私は思います。
次も詠み人知らずの短歌ですが,もう少し女性から強く意思を伝えたものもあります。
天地の神を祈りて我が恋ふる君いかならず逢はずあらめやも(13-3287)
<あめつちの かみをいのりて あがこふる きみいかならず あはずあらめやも>
<<天地の神に祈って私が恋する貴方様なのです。逢えないことなどあるはずがないのだから>>
それでも,相手が自分に靡かないようになった時は,次の笠女郎が大伴家持に贈った衝撃的な短歌となります。
心ゆも我は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは(4-601)
<こころゆもわはおもはずき やまかはもへだたらなくにかくこひむとは>
<<心から私は思ってもみませんでした。貴方様とは山川を隔てるような遠さではないのに,こんなに逢えずに恋苦しむとは>>
思ふにし死にするものにあらませば千たびぞ我れは死にかへらまし(4-603)
<おもひにししにするものにあらませば ちたびぞわれはしにかへらまし>
<<恋をしすぎて死ぬことがあるなら,私は数えきれないほど死んでいるでしょう>>
相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方に額つくごとし(4-608)
<あひおもはぬひとをおもふは おほてらのがきのしりへに ぬかつくごとし>
<<想ってもくれない人を恋することは,大きい寺にあるご利益のない餓鬼像に対して後ろから拝むような無意味なことですね>>
ここまで,言われた家持は困り果てて次のような短歌を返します。女性にもてたプリンス家持でさえ,未練がましさや自己弁護が伝わってきます。
いまさらに妹に逢はめやと思へかもここだ我が胸いぶせくあるらむ(4-611)
<いまさらにいもにあはめやと おもへかもここだあがむね いぶせくあるらむ>
<<もう、貴女に逢えないと思うからか,こんなにも私の心は塞いでいる>>
なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに(4-612)
<なかなかにもだもあらましを なにすとかあひみそめけむ とげざらまくに>
<<どうせなら黙っていればよかった。どうして貴女と逢ってしまったんだろう。正妻にはできないのに>>
天の川 「まあ~,笠女郎と家持とのやりとりは今で言うと次のようなシーンやな。
笠女郎『家持はん!奥さんと別れて,私と一緒になると言うたんちゃうんか?』
家 持『悪いけどな,今の嫁はんとはうまいこと別れられへんねん。』
笠女郎『え~!そんなん絶対アカンわ。許さへんで。』
どや?」
関西弁するとちょっとニュアンスが違うような気がするけど,私にはまったく経験がないから良いことにしますかね。
対語シリーズ「多と少」に続く。
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