万葉集で「恋ふ」という動詞を使った和歌は何と500首以上も出てきます。
万葉集の1割以上の和歌が何らかの形で「恋ふ」を使っているということは,当時の万葉歌人が作歌上もっとも重要なキーワードのひとつが「恋ふ」だったといえそうですね。そのため,万葉集で「恋ふ」の用例に事欠きません。万葉集は「恋ふ」または「恋」をテーマとした歌集だといってもよいのかなと感じることがあります。
このシリーズは通常一つの動詞に対して3回連載するのですが,おそらく「恋ふ」は3回をはるかに超えて書くことになりそうです。
さて,まず最初として大海人皇子(後の天武天皇)が額田王に贈った超有名な短歌を出さない訳にはいかないでしょう。
紫のにほへる妹を憎くあらば人妻故に我れ恋ひめやも(1-21)
<むらさきのにほへるいもをにくくあらば ひとづまゆゑにわれこひめやも>
<<紫が似合う君がもし憎かったなら,人妻である君をどうして恋い慕うことがあるだろうか>>
これは,額田王の次の短歌の返歌であることをご存知の方も多いでしょう。
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る(1-20)
<あかねさす むらさきのゆきしめのゆき のもりはみずやきみがそでふる>
<<薬草園に行ったときも猟地に行ったときも番人が見ているにも関わらず貴方がお袖をお振りになる>>
天の川 「たびとはんの訳はちっ~ともオモロないなあ。俺やったらこんな感じで訳しまっせ。
☆額田王『モト亭主やからってな,あちこちでそんな露骨なサインをだしたらアカンでしょ。ガードマンが見てはるやんか』
☆大海人皇子『今はあんたが俺の兄さん(天智天皇)の妻というてもや,ちょいとでも憎いと思てたらな,こんな好きな気持ちになるかいな。今もごっつう好きなんやからしゃ~ないやろ』
どやっ!?」
天の川君の「どや顔」の点数付けをしてもしょうがないので先に進めましょう。
「恋ふ」の中でも「人妻を恋ふ」というのは,昔も今もインパクトが強いキーワードのようですよね。
万葉集で「人妻を恋ふ」ことを詠んだものが他にもいくつか出てきますが,巻12の詠み人知らずの1首を紹介しましょう。
おほろかに我れし思はば人妻にありといふ妹に恋ひつつあらめや(12-2909)
<おほろかにわれしおもはば ひとづまにありといふいもにこひつつあらめや>
<<いい加減な気持ちと私が思っているなら,人妻である貴女を思い続けていることができようか>>
まあ,人妻であろうがなかろうが「恋ふ」の強さをどちらの短歌も「人妻を恋ふ」という表現を使って相手の女性に伝えようとしていると私は感じます。
また,相手の女性が人妻ではない(不倫関係にない普通の恋人か夫婦同士)としても,「たとえキミが人妻であったとしても僕のキミを恋い慕う気持ちは変わらないんだよ」なんていう表現を使えば,相手に対する恋慕の想いの強さを伝える表現テクニックとしても結構行けるのではないでしょうか。
おっ,また天の川君が何か言ってきそうなので,今回はこのあたりで。
恋ふ(2)に続く。
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