「添ふ」には,人が「寄添う」という意味のほかに,モノを「添える」という意味で詠まれた万葉集の和歌があります。
次の短歌は,詠み人知らずの秋の花に寄せる相聞歌です。
秋津野の尾花刈り添へ秋萩の花を葺かさね君が仮廬に(10-2292)
<あきづのの をばなかりそへ あきはぎの はなをふかさね きみがかりほに>
<<吉野の秋津野のススキを刈って,添えた秋萩の花を葺いてさしあげましょう,あなたのお住まいに>>
恋人の家の屋根に葺かれたカヤなどが傷んでいるのを,綺麗なススキを刈って,さらに秋萩の花を添えて葺いてあげましょうと詠んだのでしょう。
もちろん,これは比喩表現で,私には「好きなあなたの心を明るく(秋萩の花),幸せに(ススキの束)してあげたいと思っていますよ」という意味と解釈します。
とても分かりやすい相聞歌かもしれませんね。
もう一つの短歌は,山上憶良が筑紫で詠んだまたは編集したと伝えられる短歌です。
大船に小舟引き添へ潜くとも志賀の荒雄に潜き逢はめやも(16-3869)
<おほぶねに をぶねひきそへ かづくとも しかのあらをに かづきあはめやも>
<<大きい船に小舟を引き添えて海に出て,地元の海人が潜ってみても,志賀島の漁師荒雄に海中で会えることができるだろうか>>
この短歌は,志賀島の漁師である荒雄という人物が対馬の防人に物資を運ぶ役目の途中,遭難して帰らぬ人になったことに対する鎮魂の短歌10首の最後に出てくる歌です。
この10首のうち7首に,この短歌のように荒雄という漁師個人の名前が出てきます。
ただ,この短歌以外の6首は「荒雄ら」となっていて,荒雄とその船員を指しているようですが,この短歌だけは荒雄個人を意味しているようです。
荒雄を捜索するのに,小舟だけで玄界灘に出るのは危険が伴うため,大船の船体に太縄で繋ぎ添わせて海原に出て,遭難したと思われる地点で小舟に海人が乗り移り,潜って捜索を試みたのかも知れません。
大船だけ出したのでは,海人が海に潜った後,摑まるところがなかったり,大船の甲板と水面を行き来するだけで体力を消耗してしまいます。
この2首に出てくる「添ふ」は,ともにあるモノに付加価値(前の短歌は「秋萩の花」,後の短歌は「小舟」)を加え(添え)ることによって,元の一つのモノでは効果が限られているものをカバーする意味を示していると思います。
ヒトは何かの課題に直面したとき,ただ一つの解決策のみを見つけようとしがちではないでしょうか。
しかし,一つの解決策のみでは,メリットのほかデメリットも出てくる可能性があります。
いくつかの解決策を組み合わせることによって,それぞれのデメリットをカバーし,またメリットを相乗させることができる可能性があります。
たとえば,ウィスキーはいくつかの樽や製法の原酒をプレンドの達人と呼ばれる人がブレンドすることで,比較的まろやかで多くの人に受け入れられる味わいの製品ができるとのことです。
いっぽう,英国スコットランドアイラ島で製造されるシングルモルトウィスキーのように非常に個性的な味わいのものも作られ販売されていますが,日常的に水割りやハイボールとして飲む一般的なウィスキーの風味と大きく異なります。
別の例の話をします。
何かの目標に向かって進むチームやグループのリーダーは,同じ経験,考え,能力の人だけによる構成の方が管理が楽と思うようです。そのため,同じような人ばかり集めるか,各メンバーに同じ考え方や能力を発揮することを強制しがちです。
ただ,その場合,人数分の成果を達成するのが最大効果だが,異なる経験,考え方,能力を持つ人が加わっていると,結果として大きな相乗効果を発揮する場合があるといわれています。
本当に優秀なリーダーは,異なる経験,考え方,能力のメンバーの適材適所を考え,チームやグループとしてさらに大きな能力を発揮できるメンバー配置の能力に長けていると私は思います。ウィスキーのブレンドの達人のように。
天の川 「たびとはん。僕がたびとはんに添うことで相乗効果は抜群やろ?」
そのうち,天の川君にブレンドも失敗することが多々あることを教えないとね。 添ふ(3:まとめ)に続く。
0 件のコメント:
コメントを投稿