これからも当ブログ「万葉集をリバースエンジニアリングする」をよろしくお願いします。
前回(昨年末投稿)に引き続き,「ゆ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
斎(ゆ)…忌むこと。
靫(ゆき)…矢を差し込んでおく革の道具。
寛(ゆた)…緩やかなさま。ゆったりとしたさま。
弓弭(ゆはず)…弓の両端の弓弦(ゆづり)をかけるところ。
木綿(ゆふ)…コウゾの皮をはぎ,その繊維を蒸し,水に浸して裂いたもの。主として幣とし,榊の先に付けたもの。
忌忌し(ゆゆし)…はばかれる。忌わしい。不吉だ。
今回は,靫(ゆき)が出てくる詠み人知らずの短歌を紹介します。
靫懸くる伴の男広き大伴に国栄えむと月は照るらし(7-1086)
<ゆきかくる とものをひろき おほともに くにさかえむと つきはてるらし>
<<靫を肩に掛けている士官がたくさんいる大伴氏により,国がますます栄えると月が寿いで照っているようだ>>
革でできた靫(ゆき)を肩に掛けているような兵士の多くは,馬に乗って弓を引くことから,専門に戦術を学んだ士官級の兵士だろうと私は思います。
このように士官級をたくさん輩出してきた武門名高い大伴氏がいることで,国がますます栄えると祝福しているように月が明るく照っているという,まさにこれは大伴氏礼賛の短歌だと私は感じます。
<大伴氏の凋落>
しかし,この短歌は大伴氏の昔の勢いの復活を望んで詠んだのかもしれないとも併せて感じます。
飛鳥・天平の時代の流れは武家ではなく,政治・経済・法律・社会・国際の動向に通じていることが求められだしました。
正々堂々と戦い,勇気と武力あるものが高名を得る時代は幕を閉じ,さまざまな知識や情報を持つものが世の中を動かす時代になってきたのです。
そのため,情報を得るスパイ活動や容疑者の拷問,指導者の暗殺といったことが頻繁に行われる時代だったのかも知れません。
大伴家持は時代の変化に対し,国を守る武門の誇り,やまと言葉や文化を維持しつつ,必死で名門大伴氏を時代の流れに適応させようとしたのだと私は想像します。
しかし,家持の努力も甲斐なく,家持死後名門大伴氏は取り潰しに近い形で,勢力を消されていくのです。
<長き平安時代の安定>
その後に来る平安時代は,藤原氏による情報の統制,対抗者の排除,法律・規則の整備,社会や経済の発展が見られ,制度の修正を加えつつも400年近くに及ぶ平安文化の興隆と安定がもたらされたのです。
皮肉なことに平安時代の末期は制度維持に武家の武力に頼らざるを得ず,それが武家の勢力を再び増し,武家(平氏)の力によって平安時代が終わるのです。
<平城京遷都1,300年>
さて,もう周知のことだと思いますが,今年は平城京遷都1300年にあたる年です。奈良市やその周辺ではさまざまなイベントが企画されているようです。
万葉集も飛鳥・奈良時代の姿を映しだす鏡の一つであることは間違いないと私は思います。
しかし,そういった節目は節目として,私なりに「万葉集をリバースエンジニアリングすること(※)」を今年以降も続けていきたいと考えています。
※既にある○○説という色眼鏡を極力通さず,和歌の一つ一つの言葉から本質を理解していく行為
天の川「今年も時々顔を出すさかい,わても忘れんよう願いまっせ!」
おっと,天の川君も正月の挨拶はしたいみたい。併せてよろしくお願いします。
(「よ」で始まる難読漢字に続く)
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