前回に引き続き,「よ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
讒す(よこす)…正しくないことを言う。事実を曲げて言う。
任す(よさす)…統治を委任なさる、お任せになる。
由、縁、因(よし)…由来、由緒、理由、訳。
縁,因,便(よすが)…ゆかり。たより。えん。
外、余所、他所(よそ)…ほかの所。他所。他事。局外。
同輩(よち)…同じ年頃の子供。同い年。
攀づ(よづ)…よじる。つかんで引く。
世間(よのなか)…この世。現世。ありきたり。世間普通。
婚(よばひ)…求婚。言い寄ること。夜恋人のもとに忍び込むこと。
黄泉(よみ)…死後、魂が行くところ。
蘇る,甦る(よみがへる)…生き返る。蘇生する。失っていた活力を取り戻す。
四方(よも)…あちらこちら。諸方。
蓬,艾(よもぎ)…ヨモギ。
縒る,搓る(よる)…まじえてねじり合わせる。組んで巻きつかせる。
今回は,搓る(よる)が出てくる短歌で,紀女郎(きのいらつめ)が大伴家持に贈ったものを紹介します。
玉の緒を沫緒に搓りて結べらば在りて後にも逢はざらめやも(4-763)
<たまのをを あわをによりて むすべらば ありてのちにも あはざらめやも>
<<互いの玉の緒を緩やかに縒り合わせ結んでおけば、生きているうちにいつかきっとお逢いできるに違いありませんが..>>
この短歌は非常に難解に感じます。というか,いろいろ解釈ができるともいえます。
実は紀女郎は万葉集の彼女の和歌の題詞にどのような女性だったかが比較的詳細に書かれています。
安貴王(あきのおほきみ)の妻であった紀氏の女性で,名を「小鹿(をじか)」と呼んでいたとあります。
ところが,夫の安貴王は非常に位の高い官人の妻と密通した罪で官職を奪われ追放処分(後に復帰?)になり,紀女郎は安貴王と離縁したようです。
その後,女官として宮中に勤め,若き大伴家持と接触し,相聞歌を交わす中になったのかも知れません。
その相聞歌を見る限り,家持の方の和歌はバツイチでかなり年上の女性紀女郎の魅力の虜になってしまったように感じます。
この短歌と併せて(ひとつ前の短歌)で,紀女郎はお互いの年の差について家持の気持ちを試すような短歌を贈っています。
この2首に対して家持は次の返歌をしています。
百年に老舌出でてよよむとも我れはいとはじ恋ひは増すとも(4-764)
<ももとせに おいしたいでて よよむとも われはいとはじ こひはますとも>
<<貴女が百歳になって歯が抜け,老いた舌が出てしまい,腰が曲がってしまったとしても,私の気持ちは変りません。私の恋する思いが増すことがあっても>>
家持は,前々回で投稿した笠女郎とはまったく逆で,よほど紀女郎にお熱をあげていたのだと感じます。
一方の紀女郎は家持を玩ぶような和歌も別に贈っていて,いたって冷静に対応しているように感じます。
家持が万葉集の編者ではないのでは?という主張の中に「いくら若い頃とは言え,編者だったら自分のこんな恥っさらしの短歌を選ぶか?」というのがあるのかも知れません。
しかし,若いうちから大伴家の将来を託された家持(生まれた時からその期待があり「家持」と名付けられた可能性も)にとって,本当に甘えられるような母親の愛情を十分受けられなかったのかも知れないと私は想像するのです。
一時期それを満たしてくれた紀女郎との思い出をしっかり残したかった家持の気持ちは,(母親の愛情は十分受けた)私にも理解できる気がします。
家持は紀女郎が亡くなるまで,その思いを持ち続けていたのかも知れません。
紀女郎が家持に贈った何首かの短歌も一見玩んでいるように見えてるものもありますが,実は家持の気持ちをよく理解して贈っているように私には思えます。
天の川「ところで,たびとはんはいつまでも若い女性の方が良(え)えのと違いまっか?」
天の川君,そんな気持ちがまだあったら万葉集のブログをやっているはずがないでしょ!!
(「わ」で始まる難読漢字に続く)
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