2010年1月9日土曜日

万葉集で難読漢字を紐解く(わ~)

前回に引き続き,「わ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)

稚海藻(わかめ)…ワカメ
我許(わがり)…自分の居るところ。私のもと。
我家(わぎへ)…自分の家。
我妹子(わぎもこ)…男性が女性を親しんで言う語。
戯奴(わけ)…自分を卑下して言う語。
腸(わた)…内臓。
海神(わたつみ)…海神、海。
藁(わら)…稲、麦などの茎を乾かしたもの。

今回は,我許(わがり)を含む短歌(東歌)を紹介します。

多由比潟潮満ちわたるいづゆかも愛しき背ろが我許通はむ(14-3549)
たゆひがた しほみちわたるいづゆかも かなしきせろがわがりかよはむ
<<多由比潟に潮が満ちわたってきています。どこをお通りなるのでしょうか。愛しいあなたが私のもとに通ってこられるのは>>

これは,夫の妻問いを今か今かと待つ妻の気持ちを詠んだ和歌だろうと思います。
多由比潟は福井県敦賀市田結(たい)地区の海岸辺りのことかも知れませんが,実際にこの地で詠んだのかは私には分かりません。
というのも「多由比(たゆひ)」は夫の通いが途絶えている「絶ゆ日」となっていることに掛けて表すためにその地名を使っただけかもしれないと思うからです。
「潮満ちわたる」という表現は,夫が妻問いに来る道(その気持ち)が少なくなってきているのではないかという不安を表した比喩でしょうか。
また,「いづゆかも」は自分を思って通う気持ちが夫のどこかに残っているのか,それともまったくなくなってしまったのか分からなくなってきたという絶望感に近い感情,それが彼女の心の中で抑えきれなくなっている状況が私にはイメージできます。
でも,「愛しき背ろ」との思いは変わらず,ひたすら夫の通いを待つ自分がいるのです。
何の題詞もなく,注釈もなく,名前も残っていない女性が作ったと思われる短歌ですが,この短歌から作者は素晴らしい表現力を持っているのではないかと私は感じます。
まさに「東歌 侮るなかれ!!」ですね。(難読シリーズ最終回「を」で始まる難読漢字に続く)

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