前回に引き続き,今度は「い」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除く)。
斑鳩(いかるが)…スズメ目アトリ科の鳥。イカル。(注)奈良県の地名もあり。
海石(いくり)…海中の岩。暗礁。
鯨魚(いさな)…クジラ。
労し(いたはし)…苦労である。病気で悩ましい。不憫である。
櫟(いちひ)…ブナ科の常緑高木。
斎(いつき)…潔斎(けっさい)して神に仕えること。潔斎とは,心身を清めること。
厭ふ(いとふ)…好まないで避ける。いやがる。
斎瓮(いはひへ)…祭祀に用いる神聖な甕(かめ)。
鬱悒し(いぶせし)…気分がはれず、うっとうしい。
甍(いらか)…屋根の背。家の上棟。
同母兄、同母弟(いろせ)…同じ母の兄弟(父は違う場合あり)
この中で,「甍」について少し書きます。
童謡「鯉のぼり」の冒頭「♪甍の波と雲の波 ♪重なる波の中空を ~」に出てくる甍ですから,もちろん読める方は多いかも知れませんね。
ただ,突然「甍」1字が出てきてすぐに「いらか」と読みが出てくる人は,そうあなたのような○○の人でしょう。
さて,万葉集の中で「甍」が出てくる有名な和歌は何と言っても巻16にある「竹取の翁」の長歌といえますね。
これは竹取物語の原型の一つといわれているようですが,内容はあの竹取物語と全然異なるものです。竹取の翁が野辺で煮物を作っている9人の乙女に,自分の若かりし頃にあった女性との一途な愛(一生懸命はなやかに着飾って注目されようとした)を語っているような内容です。
この中で「~ 海神(わたつみ)の殿の甍に 飛び掛けるすがるのごとき 腰細の ~」というように使われてます。
「竜宮城の甍に飾ってあるすがる<シガバチ>のような腰細のスタイルで」と,翁が若いとき,相手の親の反対にもめげずに逢っていた彼女から秘かに贈ってもらった帯をきちっと締めた自分の格好良さを紹介した行(くだり)です。
竹取の翁の昔の恋物語を聞いた9人の乙女たちは,それぞれ(その努力に対して感心したという意味の)感想を短歌で翁に返しています。
さて,今の世の中,お爺さんから若いころの恋自慢を聞かされて感心する若い女性はどれだけいるのかなと思うと,単なる物語の和歌とは言え,そのころが少し羨ましいと感じますね。(「う」で始まる難読漢字に続く)
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